ここには東大特有の事情が絡んでいる。東大では1、2年の教養学部前期課程で必要単位を取得すると3年時からは法学部や経済学部、医学部といった学部へと「進学」をする。全学生が希望通りの学部に進学できるわけではなく、競争率の高い学部・学科については前期課程の成績、それも春学期末までの成績順に割り振られる。
つまり、目下実施されている春学期末試験の結果が進学選択に大きく影響する。将来にかかわる重要な試験であるため、学生間に不公平感が生じないよう配慮したというのが教養学部の言い分だ。
学生たちの思わぬ「反発」
ところが事態は大学にとって思わぬ方向へと展開する。1つは学生側からの反発だ。
6月13日、教養学部学生自治会は「感染や濃厚接触の責任を学生だけに負わせるのは非人道的だ」と、コロナ特別救済措置の存続を求める要望書を学部長宛てに提出。長谷川恭平自治会長は東洋経済の取材に「教養学部の方針は、コロナ感染者や濃厚接触者に登校自粛を求めながら試験を休んでも救済はしないということを意味する。そうであれば陽性者や濃厚接触者は無理をしてでも登校して受験しなければならなくなる。コロナに感染した学生に登校自粛を求めるのであれば相応の救済措置があってしかるべきだ」と言う。
自治会が学生向けに実施したパブリックコメント(総回答数685件。前期課程生の10%超)ではコロナ特別措置存続への賛成が94.7%に達した。多くの学生が大学の方針に疑問を抱いていることが明るみにでた格好だ。
もう1つ、大学側の大きな誤算が新規感染者の急増だ。教養学部が特別救済措置の撤廃を発表した6月6日前後、東京の新規感染者数は1000~2000人前後で推移していた。ところが7月に入ると第7波の到来で新規感染者は急激に増加。春学期末試験がスタートした7月20日、東京の新規感染者数は2万人を超え、試験3日目の22日には3万4995人の過去最多を更新。26日にも3万1593人と高止まりしている。
記事冒頭で大学職員が「悩ましい」と口にしたのは、試験が始まって間もない7月20日前後のこと。大学側の「本音」が滲み出ているが、悩ましい気持ちを隠しきれないのは大学当局だけではない。学生たちから幾つもの問い合わせをうける教官たちも回答に窮している。
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