コロナの英雄vs蒋経国の孫で白熱する台北市長選 2022年11月投票、最有力地盤で国民党は復活なるか
また、国民党にとって、蒋万安氏が「蒋家の血」を引いていることも重要だ。党内で影響力が増大している親中急進派勢力は、台湾人との距離をどんどん広げる大きな要因になっている。彼らを抑える意味でも、蒋家の血筋は重要な意味を持つことになる。なぜなら蒋介石や蒋経国は、中国との統一を志向するものの反共路線を徹底していた。ただひたすらに中国に寄り添い、あわよくば中国に抱かれようとする今日の彼らとは明らかに違うのである。蒋万安氏を擁立することは、なりふり構わず中国に傾斜する党員への牽制にもなりうるのだ。
さらに、現在の中高年層にとって、蒋経国時代に感じた経済成長へのノスタルジーは非常に強い。蒋介石の評価とは異なり、場合によっては肯定的に評されることが多いのだ。台湾人の国民党離れが加速する中、同党にとって蒋経国は、有権者離れを食い止められるかもしれないカードになりつつある。
蒋経国の「孫」がアピールポイント
2022年1月22日、蔡英文総統は、台北市内の蒋経国の公邸「七海寓所」を文化施設として再整備した「経国七海文化園区」の開幕式に出席した。演説で、日増しに厳しくなる中国からの政治的軍事的圧力に対し、故人がかつて発言したとされる「中華民国は反共の堡塁(ほうるい)」を引用し、台湾防衛を称えた。この発言に国民党支持者らの間で、「蒋経国まで民進党に取られてはならない」とする声が相次いだのだった。蒋介石のひ孫であるよりも、蒋経国の孫であることが、今の台湾の世論にとってポイントになっていると言える。
蒋経国は、1910年4月27日、蒋介石の長男として中国浙江省で生まれた。翌年には辛亥革命が発生。この時代に生きた中国の知識人らと同じように、儒教思想に代表される伝統的な教育と、西洋の現代的な教育の両方に触れた。
1925年の15歳の頃、革命や共産主義に心酔、また国民党が中国共産党(以下、共産党)と第一国共合作が行われた時期に、ソ連のモスクワ中山大学に留学する。当時は父に絶縁状をたたきつけるほど、親子関係が冷え切っていたが、1936年に起きた西安事件を境に帰国。その後、徐々に関係を修復し、国民党内で実力を付け、ついには父の片腕のような存在となり、1978から88年の死去まで中華民国総統を務めた。
実績を見ると、総統在任中に台湾におけるインフラ整備や経済発展を進め、後継者に李登輝元総統を抜擢するなど、父とは違って台湾重視のスタンスを取ったように映る。しかし一方で、ソ連に長く滞在した経験を生かし、特務機関のトップとして辣腕を振るうなど、「白色テロ」(国民党支配の台湾で、反体制派に行った政治的弾圧)に代表される民主派勢力の弾圧を進めた。今日まで台湾社会が抱える傷跡を作った人物として批判する人も多い。
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