戦争の「出口戦略」で決断迫られるプーチン大統領 どこまで制圧すれば「勝利」かをめぐり政権内で対立

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ムーア氏は「ロシアは今後数週間にわたって人員供給が徐々に難しくなると考えている。ウクライナ側に反撃のチャンスが来る」との見解を示した。MI6長官がここまで明確に戦況の見通しについて公開の場で述べるのは異例だ。

長官発言と符号する見解は2022年7月初め、ロシアの軍事専門家であるパベル・ルジン氏からも出ている。同氏は、ロシア軍が損傷を受けた戦闘機や戦車の補充を早期に行う能力を欠いていると分析。さらに「現在、砲弾の不足が深刻化しており、2022年末までに砲弾の不足が決定的になるのは明らか」とも指摘した。

ロシア軍お家芸の地上砲撃が減少

かつて独裁者スターリンが大砲やロケット砲による砲撃を「戦争の王様」と呼んだように、ロシア軍は伝統的に砲撃戦を重視している。1日当たり6万発もの大量の砲撃をウクライナ側に加えて、ルハンシク(ルガンスク)州の制圧に成功した。ウクライナ側の砲撃数の約10倍に相当する圧倒的な火力を見せつけ、これまで戦闘で優位に立ってきた。

しかし、ウクライナの軍事アナリスト、オレグ・ジダーノフ氏も最近、ロシア軍の地上砲撃が減ってきたと証言する。その代わりに増えてきたのが航空機による空爆だ。だが精度が砲撃より落ちるため、ウクライナ側の被害が減っているという。

また、兵力の補充でもロシア軍は「苦戦」している。同氏によると、2022年4月に実施された春季徴兵で入隊したばかりの有期雇用兵に対する90日間の契約期間が、2022年6月末で終了した。しかし現地での戦況に幻滅し、契約を更新しない兵士が多いと言う。プーチン政権は、現在服役している兵務経験者に対しても、給与と早期出所を約束して入隊を志願するよう働きかけているが、上手く集められていないという。

こうしたロシア軍の戦力と士気双方の低下の兆しとは対照的に、米欧からの武器支援は加速度的に質量ともに増えている。バイデン政権は2022年7月22日、ウクライナに対する2億7000万ドル(約370億円)規模の追加軍事支援を発表したが、注目されるのは、ハイマース(M142高機動ロケット砲システム)4基の追加供与だ。

しかし、これ以外でも自爆型無人機「フェニックスゴースト」がウクライナ側には大きな意味を持つ。580機も供与されるフェニックスゴーストは、ウクライナ戦争の特性を受けてアメリカ軍が開発した無人機だ。精密誘導のミサイルのような役割を果たす。アメリカはさらに追加支援を行うと明言している。

ロシア軍の弾薬庫、司令部などの攻撃で成果を上げているハイマースの計16基への増強と「フェニックスゴースト」は、ウクライナ側にとって「攻撃のゲームチェンジャー」になると期待されている。ハイマースの攻撃を避けるため、ロシア軍はすでにウクライナ領内にあった弾薬庫などを後方に移動させている。このため前線の砲撃部隊への砲弾の供給に影響が出ているという。

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