戦争の「出口戦略」で決断迫られるプーチン大統領 どこまで制圧すれば「勝利」かをめぐり政権内で対立

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しかし、ある西側外交筋は、アメリカ政権が射程80キロメートルのハイマースに比べ、300キロメートルと射程が大幅に長い地対地ミサイル、エイタクムス(MGM-140ATACMS)をすでに秘密裡にウクライナ軍に供給済みであることを明らかにした。ウクライナが求めていた射程300キロメートルクラスのミサイル提供について、ロシア領内への攻撃につながる恐れがあるとして、アメリカ国防総省は供与の方針を現時点で否定している。このように公式には否定していたため、発表を当面控えているとみられる。

早期の領土奪還実現へ米欧が戦略転換

エイタクムスの供与により、ウクライナ軍はロシアとの国境近くまで後方に下がった弾薬庫などの軍施設に対して「さらに追撃ができるようになった」と同筋は指摘する。加えて、ウクライナ軍は黒海沿岸にあり、激戦の末ロシア軍が制圧した南部マリウポリなどに対しても遠方から砲撃を加えることができるようになったという。

ゼレンスキー大統領は今月初め、軍に対し、ヘルソン州など南部の奪還を命じたが、ハイマースやエイタクムスの供与を踏まえた命令とみられる。

バイデン政権のほか、イギリス政府も2022年7月21日、自走式155ミリメートルミリりゅう弾砲20門などウクライナへの追加軍事支援を発表。軍事支援を大幅に強化していく方針を表明した。

ウクライナ戦争以降、米欧はこれまで、兵器の供与やウクライナ部隊訓練など着実に実施してきたが、その一方でロシアを必要以上に挑発しないよう、武器の性能や種類に関して一定の自制をしてきた。

しかし、その結果、戦況は膠着化。ロシアとウクライナとの停戦の機運も遠のいてしまった。このままでは戦争の長期化は避けられない情勢となった。加えて、ロシアから天然ガスの供給削減によってドイツなどで今年冬、深刻な燃料危機が起こる可能性も高まっている。そうなっては、エネルギーを握っているロシアへの妥協論が強まり、米欧の団結も揺らぎかねない。

このため、米欧はウクライナが一定の占領地奪還ができるよう、早期に戦場で勝利させる方針に転換したと同筋は明らかにした。米欧は一定の領土奪還を果たしたウクライナがロシアとの停戦協議に前向きになることを目指しているという。

これは、ゼレンスキー大統領が戦争終結のために領土を割譲するとの選択肢を頑強に拒否しているためだ。2022年2月24日以前の領土までロシア軍を押し返した時点か、南部奪還の段階か——。どこまで領土を奪還すればゼレンスキー大統領が停戦協議に応じるのか。これについて、同筋は「わからない」と強調したうえで、2022年冬ぐらいまでにウクライナ軍に有利な状況を造ったうえで、何らかの停戦を実現するというのが米欧の戦略と指摘した。

このようにロシアだけでなく、米欧、ウクライナも自らの利益を満たす「出口」に向けた動きを本格化させている。このため2022年8月以降、ウクライナ情勢は極めて重要な局面に入ることになりそうだ。日本政府もこうした状況を踏まえ、積極的に米欧、ウクライナに協力すべきだ。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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