高卒男性を過重労働でボロボロにした企業の罪 残業は月200時間以上で、手取りは20万円だった

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ユウトさんは宅配ドライバーを辞めた20代前半からは、スーパーやドラッグストア、家電量販店などでパートやアルバイトとして働いてきた。この間も就職活動は続けており、正社員として採用が決まったことも7、8回はある。接客業で鍛えられたユウトさんの受け答えはしっかりしており、敬語も使えるからなのか、内定を得ること自体は難しくなかった。

ところが、出勤日が近づくと「とにかくこの場から逃げ出したい」というプレッシャーに押しつぶされそうになる。結局正社員の内定はことごとく断ってきた。直前まで勤めていたパートやアルバイトはすでに辞めている。プレッシャーからは解放されるものの、今度は収入がなくなることへの不安に襲われる。

「『自分にはできないんじゃないか』『またダメなんじゃないか』と思ってしまうんです」とユウトさんはため息をこぼす。もう10年以上、そんなことの繰り返しだ。

「発達障害」と診断された

1年ほど前、定職に就けないユウトさんを見かねた家族から「発達障害なのでは」と指摘を受け、心療内科に足を運んだ。1カ所目の病院では発達障害ではないと言われたが、2カ所目の病院で自閉症スペクトラム(ASD)と診断された。

あらためて振り返ってみると思い当たることがあると、ユウトさんは言う。子どものころから人見知りが激しく、板書を書き写すことが苦手だった。大人になってからも人間関係の距離感をつかめず、冗談で言ったつもりのことがセクハラと受け止められたことがあった。初めて働いたスーパーでも、魚を仕分けたり、さばいたりといった作業が同僚に比べて遅かったのは事実だという。

こだわりが強い性格が災いしてパート先での居心地が悪くなったこともある。ユウトさんは「~~円からお預かりします」「~~のほうをお持ちしました」といったいわゆる「バイト言葉」を聞き流すことができないという。同僚が使っているのを耳にすると、指摘せずにはいられないのだが、それにより関係がぎくしゃくしてしまうのだ。

一方でユウトさんにとって発達障害の診断は大きなショックだった。理由は?と尋ねると、少しためらった後、「自分の中に障害者に対する偏見と嫌悪感があるからです。生産性がない、必要のない人たちなのではないかと思ってきました」と打ち明ける。

見下してきた障害者に、自分もなってしまった――。障害者への偏見が、自身を一層苦しめる呪いになっていることは、頭ではわかっている。しかし、長年の価値観を簡単に改めることは難しい。ユウトさんは今も診断結果を受け入れることができないという。

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