高卒男性を過重労働でボロボロにした企業の罪 残業は月200時間以上で、手取りは20万円だった

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障害者への偏見の善しあしは別にして。発達障害の人は得手不得手の凹凸の落差が大きいとされる。ただこうした凹凸は誰にでもあるともいえる。

発達障害と診断するかどうか、最終的には医師が総合的に判断する。以前取材で話を聞いた精神科医によると、たとえ問診や検査の結果が同じでも、本人が生きづらさを感じていなければ、あえて診断しないこともあるという。

ユウトさんが振り返って例に挙げた子ども時代や人間関係のエピソードはたしかに発達障害の特性にもみえる。一方、たらればの話にはなるが、もしユウトさんが初めて勤めたスーパーの労働環境があそこまで劣悪ではなく、働き続けることができていれば、病院に行く必要もなく、発達障害と診断されることもなかっただろう。

ユウトさんを発達障害当事者にしたのは、働き手をゴミのように使い捨て、効率ばかりを優先する悪質企業や、それを放置してきた社会なのではないか。

40人いた同期のうち残っているのは数人

ユウトさんは子どものころから、魚を食べることも観察することも大好きだったという。初めて勤めたスーパーで鮮魚売り場に配属されたときは、夢がかなったと思った。残念ながらそこは超絶劣悪職場だったが、ユウトさんは今も働くこと自体は好きだったし、やりがいもあったと振り返る。

「魚をさばくのは遅かったですが、売り場づくりや接客は得意だったんです。お客さまに旬の魚を勧めたり、おいしい食べ方を伝えたりすることが楽しかった。会社がもう少し人を財産として扱ってくれていれば……」

記事の中ではユウトさんが特定されないよう、匿名表記にしているが、そのスーパーを展開するのは、業界では安くて新鮮な魚を提供することで知られた企業だ。一方でユウトさんによると、当時40人いた同期のうち今も残っているのは数人だけだという。いずれにしても、働き手を使い捨てることで維持できる安さや品質なのだとしたら、それはまがいものだ。それをなんら疑問に思うことなく享受している私たちも、もしかしたら共犯なのかもしれない。

ユウトさんの同級生の中にはすでに子どもや家、車を持ち、“普通”の生活をしている人もいるという。翻って自分はどうか。今後、正社員として採用される機会は間違いなく減っていくだろう。30代半ばを過ぎた今、「自分の未来がどんどん閉ざされていくような気がします」。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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