つまりいくつかの異なるレベルの情報を照らし合わせて、因果関係と相関関係の理解を深めていく余地がある。
ここでは国際政治学の泰斗ケネス・ウォルツの著書『人間・国家・戦争 国際政治の3つのイメージ』で描かれた、戦争の因果関係の3つのレベル、すなわち個人(individual)、国家(state)、国際システム(international system)に分類して考えてみたい 。
まず世界という大きな空間から国家そして個人へと空間の絞り込みをはかってみたい。すなわち、「国際システム」から「国家」、そして「個人」へと分析を進めてみよう。
プーチン大統領「個人」からみたウクライナ侵攻
分析の第1レベルである「個人」の役割を検討してみよう。プーチン大統領は、なぜウクライナ侵攻を決断したのか、という中核的な問いである。特に個人独裁に近い権威主義国家において、プーチン大統領の理念、情勢認識、決断がもっとも重要であることに疑問の余地はない。
プーチン大統領個人をプロファイリングしながら、政治心理学、動機付け、行動理論、性格分析などから読み解いていく必要があるだろう。こうした分析は、情報コミュニティーの真価がもっとも問われる領域でもある。ここでは4つほど特徴を挙げてみたい。
第1は、プーチン大統領が冷戦後に失われたロシアの栄光を取り戻し、強いロシアを回復させたいという執念を持っていたことである。
2021年7月にプーチン大統領が発表した18ページにわたる論文「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」には、ロシア人とウクライナ人は1つの民族で、独立国家としてのウクライナの主権を否定し、ウクライナをロシアの歴史的領土とみなす。またウクライナで生じている危機は、西側外国勢力が反ロシアを掲げて危機を演出したと論じている。
プーチン大統領にとって、ウクライナはロシアに回収されなければならない領土として位置づけられていた。
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