以上のようなプーチン自身の観念は、誇大妄想のようにも聞こえるし、実態と大きく異なることも指摘できる。
アメリカやNATO諸国はプーチンが考えるほど、ロシアに敵対的であったとはいえない。ましてやアメリカの目的がロシアの解体にある、という考え方をアメリカ国内から見いだすことは困難である。
またドンバス地方において内戦が展開されたことは事実だが、ロシア系住民がジェノサイドの危機に瀕しているというのは誇大評価であろう。
さらに、アメリカに扇動されたにすぎないウクライナ国民がロシアからの解放を待ち望んでいるかのような考え方は、大きく実態と異なっている。
ロシアのウクライナ侵攻は防げたのか?
仮にこうしたプーチン大統領個人の考え方が是正されていれば、ロシアのウクライナ侵攻は防げていたかもしれない。またアメリカ・NATOが軍事介入する可能性を強く示唆すれば、プーチン大統領は軍事行動を思いとどまったかもしれない。
さらに経済制裁の苛烈な効果や、国際社会で孤立することを事前に示せていれば、プーチンの損得計算を冷静に働かせる効果を持ったかもしれない。
こうした働きかけが成功していれば、多くのウクライナ国民の命は助かっていたかもしれないのだ。
しかし、以上の見解も仮説に基づく見立てにすぎない可能性もある。それは第1イメージ(個人の考え)も、第2イメージ(国家統治や組織)、第3イメージ(国際システム)の相互関係によって成り立っているからである。
だとすれば、ウクライナ危機はウクライナ侵攻の政策過程の検証だけでなく、より広い観点から分析を深めていかなければならない。こうした多角的検討から、次の人道的な悲劇や国際秩序の破綻を防ぐための叡智を導くことができるかもしれないのだ。
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