改めて知りたい「ウクライナ侵略」が起きた理由 プーチン氏の個人的な判断が決定的だったのか

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以上のようなプーチン自身の観念は、誇大妄想のようにも聞こえるし、実態と大きく異なることも指摘できる。

アメリカやNATO諸国はプーチンが考えるほど、ロシアに敵対的であったとはいえない。ましてやアメリカの目的がロシアの解体にある、という考え方をアメリカ国内から見いだすことは困難である。

またドンバス地方において内戦が展開されたことは事実だが、ロシア系住民がジェノサイドの危機に瀕しているというのは誇大評価であろう。

さらに、アメリカに扇動されたにすぎないウクライナ国民がロシアからの解放を待ち望んでいるかのような考え方は、大きく実態と異なっている。

ロシアのウクライナ侵攻は防げたのか?

仮にこうしたプーチン大統領個人の考え方が是正されていれば、ロシアのウクライナ侵攻は防げていたかもしれない。またアメリカ・NATOが軍事介入する可能性を強く示唆すれば、プーチン大統領は軍事行動を思いとどまったかもしれない。

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さらに経済制裁の苛烈な効果や、国際社会で孤立することを事前に示せていれば、プーチンの損得計算を冷静に働かせる効果を持ったかもしれない。

こうした働きかけが成功していれば、多くのウクライナ国民の命は助かっていたかもしれないのだ。

しかし、以上の見解も仮説に基づく見立てにすぎない可能性もある。それは第1イメージ(個人の考え)も、第2イメージ(国家統治や組織)、第3イメージ(国際システム)の相互関係によって成り立っているからである。

だとすれば、ウクライナ危機はウクライナ侵攻の政策過程の検証だけでなく、より広い観点から分析を深めていかなければならない。こうした多角的検討から、次の人道的な悲劇や国際秩序の破綻を防ぐための叡智を導くことができるかもしれないのだ。

神保 謙 慶應義塾大学総合政策学部教授

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じんぼ けん / Ken Jimbo

専門分野は、国際安全保障論、アジア太平洋の安全保障、東アジア地域主義。
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程修了(政策・メディア博士)。防衛大学校講師、東京財団研究員ほか多数兼務。また、これまでに経済財政諮問会議21世紀ビジョン「グローバル化ワーキンググループ」専門委員、日本国際問題研究所研究員、日本国際フォーラム研究主幹などを歴任している。主な著書に『アジア太平洋の安全保障アーキテクチャ: 地域安全保障の三層構造』(日本評論社)など。

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