刑事・警察ドラマが一変した意外と知らない契機 「踊る大捜査線」前後で激変、もう1つの作品も

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こうして『踊る大捜査線』が呈示したファクターが、刑事・警察ドラマの作り方を大きく変えたのは、間違いないことと思いますが、筆者はもう一つ、流れを変えた作品があると思います。

それが……『ケイゾク』(TBS系/1999年)です。

中谷美紀、渡部篤郎主演で、迷宮入り事件を専門に扱う、警視庁刑事部・捜査第一課弐係という架空の部署が舞台の作品。後の『TRICK』シリーズ(テレビ朝日系/2000年~)に繋がる、演出家・堤幸彦による脱力系演出も話題となりましたが、この作品のユニークさは、迷宮入り事件に特化した部署という設定でした。ここから発想が広がっていき、海外ドラマの影響なども相まって、“刑事・警察ドラマの部署・細分化時代”が始まったのではと筆者はにらんでおります。

特殊な部署に所属する刑事(警察官)だらけ

例えば、神奈川県警の広報課に所属し、写真的記憶力と画才による“似顔絵捜査”を展開する平野瑞穂(仲間由紀恵)が活躍する『顔』(フジテレビ系/2003年)、警視庁捜査一課・強行犯係所属ながら、“ベッパン(別班)”と呼ばれる部署にいてたぐいまれな記憶力を活かす春瀬キイナ(菅野美穂)が活躍する『キイナ~不可能犯罪捜査官~』(日本テレビ系/2009年)。

通常では手に負えない超能力などが駆使された犯罪を追う当麻紗綾(戸田恵梨香)が主人公の『SPEC~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿』(TBS系/2010年)、 警視庁捜査一課・緊急事案対応取調班に配属された真壁有希子(天海祐希)たちの活躍を描く『緊急取調室』(テレビ朝日系/2014年~)。

警視庁捜査一課・科学捜査係文書解読班に配属された矢代朋(波瑠)の活躍を描いた『未解決の女 警視庁文書捜査官』(テレビ朝日系/2018年~)、SNSへの悪質な書き込みによる様々な事件を扱う、通称“指殺人対策室”所属の万丞渉(香取慎吾)が主役の『アノニマス~警視庁“指殺人”対策室~』(テレビ東京系/2021年)。

警視庁捜査一課・科学犯罪対策室・室長の小比類巻祐一(ディーン・フジオカ)たちが、最先端科学が絡んでいると思われる難事件に挑む『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』(日本テレビ系/2022年)、被疑者の感情が色になって見える、神奈川県警東神奈川署刑事1課強行犯1係巡査部長・心野朱梨(飯豊まりえ)の活躍を描く『オクトー~感情捜査官・心野朱梨~』(日本テレビ系/2022年)などなど、警視庁内にはどれだけ部署があるんだ……と思うほど、特殊な部署に所属する刑事(警察官)だらけとなっているのが現状です。

冒頭の「木曜ミステリー」廃枠に象徴されるように、旧来の、叩き上げの、人情派の刑事(デカ)が事件を解決する刑事・警察ドラマは、少々残念ながらもはや、風前の灯。組織の中で柔軟に立ち回りながら、時に特殊な犯罪を、特殊な捜査方法を駆使して解決する……それが『踊る大捜査線』『ケイゾク』を経た、現代の刑事・警察ドラマとなっているのではないでしょうか。

(文中敬称略)

小林 偉 メディア研究家

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こばやし つよし / Tsuyoshi Kobayashi

メディア研究家、放送作家、日本大学芸術学部講師。東京・両国生まれ。日本大学藝術学部放送学科卒業後、広告代理店、出版社を経て、放送作家に転身(日本脚本家連盟所属)。クイズ番組を振り出しに、スポーツ、紀行、トーク、音楽、ドキュメンタリーなど、様々なジャンルのテレビ/ラジオ/配信番組などの構成に携わる。また、ドラマ研究家としても活動し、2014年にはその熱が高じて初のドラマ原案・脚本構成も手掛ける。

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