トヨタとテスラの勝負を占う3つの重大ポイント 「論語と算盤」が意外なカギを握るかもしれない

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イーロン・マスクの奇矯な行動は、今回のツイッター買収撤回騒動に始まったことではありません。卓越したカリスマ性で人を引きつける一方で、鬼才、無謀、クレイジー、ペテン師、独裁者等の人物評で知られています。起きている時間は常に働く、周りが50時間働いているなら自分は100時間働く、そうすれば人の倍の速さで物事を達成できる、といった発言からも、彼の「突き抜けた」人物像が伝わってきます。

そして「突き抜けた」人物でなくては到底実現が不可能な、壮大なミッションを掲げているのも確かだと思います。しかしながら、長期にわたって持続可能な組織は、論語=道徳も兼ね備えているもの。一度は栄華を極めた国家が、ある種の寛容性を失うことで滅びていった例などは、歴史上枚挙に暇がありません。

「智、情、意」がバランスよく調和してこそ

「論語と算盤」のなかには、「常識」という章もあります。そこでは「智、情、意」の3つがバランスよく調和してはじめて常識人になる、と書かれています。智とは知性や判断力、情は思いやりややさしさ、意は意思を示します。また、「論語と算盤」には「英雄豪傑」なるものが登場します。それは、智情意のバランスを失っているものの、1点では非常に優れたものがある人物、とされています。

ここから、テスラのイーロン・マスク=英雄豪傑、トヨタ自動車の豊田章男社長=常識人、という比喩を導くのはそう難しくないはずです。智と意に優れながら情の部分が欠落した英雄豪傑のイーロン・マスクと、日本の自動車産業を背負いながらも変革を画策する常識人の豊田章男社長の戦いはこれからどうなるのか。

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現時点から10年後までの短中期的な戦いにおいては引き続きイーロン・マスクの智と意がリードしていくことでしょう。しかし数十年単位の戦いにおいては、情が欠如したイーロン・マスクが、常識人たる豊田章男社長に敗れ去るシーンも出てくる可能性があると見ます。

飛ぶ鳥をおとす勢いのテスラが今後どこかで成長限界にぶつかるとしたら、それは「算盤」=物理学的思考の失策ではなく、イーロン・マスクの「論語」の欠如が遠因になるのではないか。私には、そう思えてなりません。

田中 道昭 立教大学ビジネススクール教授

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たなか みちあき / Michiaki Tanaka

シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略およびミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)などを経て、現在は株式会社マージングポイント代表取締役社長。主な著書に『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)、『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)など。

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