一方、トヨタのスタンスは、統合報告書2021にも掲げられていましたが、「未来を予測するより変化に対応できることが大切」というものです。未来を正確に予測できる人間など誰もいない、そう考えるなら、どのような未来がやってきても対応できる体制を整えておくのが、企業の持続可能性を高めるはずです。
どちらに勝利の女神が微笑むのか。しかし短期的な視点に限るならば、トヨタどころか、フォルクスワーゲン、GM(ゼネラル・モーターズ)、フォードなど名だたる自動車メーカーの合計時価総額を上回るほど巨大化したテスラに、軍配をあげておくべきでしょう。
長期的にテスラは安泰ではない
3)「論語」対「そろばん」、あるいは「英雄豪傑」対「常識人」
しかし長期的な視点に立った場合、テスラが安泰だとはとても思えません。
2022年、イーロン・マスクは、1度は合意していた440億ドルを投じてのツイッター社買収を、なぜか保留したのちに、突如「ツイッターとの合意条項に重大な違反があった」として買収を撤回しました。これに対しツイッター社は、買収を実行するよう訴訟を起こしています。
イーロン・マスクの発言を追う限り、偽アカウント割合等の重要情報が開示されず、提示した買収価格に合理性を見いだせなかったのだろうと予想ができます。しかし、そもそもの買収〜買収撤退の一連の行動を見れば、「気まぐれ」との批判は免れませんし、これまでイーロン・マスクを高く評価してきた私も、今回は弁護するつもりはありません。ツイッター社員や株式市場等を混乱させてきたことなどは責任重大です。
ここで思い出されるのは、日本実業界の父とされる渋沢栄一の「論語と算盤(そろばん)」です。渋沢は、論語=道徳を守ること、算盤=利益、合理性を追求すること、それら相反する要素を両立してこそ、長期的な繁栄があると説きました。
その点、イーロン・マスクはどうか。物理学的思考に長けたイーロン・マスクは、算盤に長けた人物だと言えます。しかし、論語については欠落していると言わざるをえません。
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