平和を望むはずの人々を戦争に突き動かした言葉 アテネの指導者がペロポネソス戦争で示した演説

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わたしは諸君らに、所有する家屋や財産を破壊するように命じても良いとすら思っている。我々が戦うのは、財産を失うことを恐れるせいではないということを、ペロポネソス勢に見せつけようではないか。

大いなる危険には、大いなる名誉が伴う

このほかにも我々が勝っている点はいくらでもあるのだが、それも諸君らが戦争の目的を領土拡大の野心と混同せず、自らの利益のために余計な危険に身をさらさない場合に限る。

わたしは敵の計略よりも、味方の失敗を恐れる。それについては、また別の演説で触れるとしよう。とりあえず今は、次のようなメッセージとともにスパルタの使節を送り返そうと思う。

スパルタが我が市民や同盟国に対する外人追放令を解除すれば、我々もふたたびメガラに対して市場や港を開放するだろう(条例のなかにこれと抵触する条項は存在しない)。

また、スパルタが同盟国に対する自治権を認め、彼らが望む相手と同盟を結ぶ権利を認めるのであれば、我々も同盟の締結前に自治権を保持していた国に対しては、自治権の回復を認めるとしよう。

スパルタに伝えるのだ。我々は協定に示された手順に喜んで従うつもりであり、そちらから戦争をしかけてこない限り、自ら戦争をしかけるつもりはないのだと。以上が我々にとって最善の返答であると考える。

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我々は戦争を不可避のものとして受け入れなければならないのであり、その覚悟を持てば、相手方の決意のほどが、我々の決意には到底およばないということがわかるだろう。

また、今一度思い起こしてほしいのは、都市や個人にとって、大いなる危険には大いなる名誉が伴うということだ。

周知の通り、我々の父親たちもペルシア人の侵略に耐え忍んだ。しかもそれを相手よりも乏しい戦力でやってのけたばかりか、戦力が底をついたときですら耐え忍んでみせたのだ。

彼らは運より洞察、力より大胆さを発揮して野蛮人の軍団を撃退し、我々が暮らすこの国を築いてくれた。彼らの示した模範に恥じない生き方をし、勝利のためにあらゆる手立てを尽くし、既存の領土を微塵も損なうことなく、子孫たちに継承しようではないか。

トゥキュディデス 歴史家

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Thucydides

(紀元前460年頃‐紀元前400年頃)古代ギリシアの代表的歴史家の一人。ペロポネソス戦争を扱った歴史書『戦史』の著者。ペロポネソス戦争が開戦した当初より、この戦争が史上特筆に値する大事件となることを見越して、歴史記述の作業に取りかかる。紀元前430年から2年あまりアテネで流行した疫病を生き抜き、生涯を『戦史』の執筆に費やした。

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