「自分たちは犠牲者」の声が忘れている危険な思想 韓国だけではない!なぜ悲劇の記憶を争うのか

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典型的なのがイスラエルだ。ホロコーストのようなひどい経験をしたなら、悲劇的な経験をした他者に共感するのではないかと考えるものだが、現実は違う。イスラエルはパレスチナ人に対して攻撃的で、占領地であるヨルダン川西岸に国際法違反の入植地建設を続けてもいる。それでもホロコーストの犠牲者という地位を世襲し、自分たちを非難できる人がこの世のどこにいるのかという態度を取る。

韓国人も、他国の犠牲がどれだけあったかも知らないまま、日本の帝国主義による支配が最もひどいものだったという話をする。しかし韓国人だって、機会があったら加害者の側に回っていたかもしれない。犠牲者意識ナショナリズムは、そうした自省の機会を奪ってしまうものだ。

日韓の対立を解消するには?

澤田:著書で「問題は歴史的事実ではなく過去に対する記憶である」と指摘しています。事実は重要でないのでしょうか。

:事実が明らかになれば、衝突する記憶の問題が解決されるほど簡単な問題ではないということだ。事実が重要ではないというわけではないが、結局は解釈の問題が残る。記憶は主観的な解釈を後押ししやすく、他者との溝を深める傾向がある。

日本と韓国の間で「歴史の歪曲をしている」と互いを批判することがあるが、それは必ずしも正しくない。事実に対する解釈の違いが含まれているからだ。日韓の対立を解消するには、記憶のカルチャーを変えていくことが大切になる。

必要なのは、相手の考え方を知り、自国中心的な記憶から抜け出すことだ。そのためには、「記憶」の問題を直視するとともに、トランスナショナルな次元における東アジアの民族主義を批判することが必要だ。

澤田 克己 毎日新聞論説委員

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さわだ かつみ / Katsumi Sawada

1967年埼玉県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。在学中、韓国・延世大学で韓国語を学ぶ。1991年毎日新聞社入社。ソウル特派員、ジュネーブ特派員、外信部長などを経て2020年から現職。著書に『「脱日」する韓国』(ユビキタ・スタジオ)、『韓国「反日」の真相』(文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、『反日韓国という幻想』(毎日新聞出版)、『新版 北朝鮮入門』(共著、東洋経済新報社)など、訳書に『天国の国境を越える』(東洋経済新報社)。

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