そして、「自動車産業はよいケーススタディだ」とし、アメリカでは自動車メーカーに関して「パンデミックの開始以来、小売り在庫が大幅に減少したにもかかわらず、メーカーの在庫は実際にはわずかに増加」したことを指摘した。
すなわち、自動車小売業者や完成車メーカーはサプライチェーンの問題によって在庫が減少することを懸念し、サプライヤーに部品などの発注を多めにしていた可能性がある。その際に「需要情報」が過剰に伝わってしまい、「ブルウィップ効果」が生じていたのではないか、という考察である。
ブルウィップ効果は二重に不安をもたらす
当時はさらなる感染拡大に備えて部品調達を、場合によっては必要以上に増やしていた可能性もあるだろう。その過程で、部品や原材料の調達が過剰となり、生産者在庫が積み上がりやすかったのではないか。業界全体としては必要以上に在庫を積み上げるという、「ブルウィップ効果」が出ていた可能性がある。
Hyun Song Shin氏は最終的には過剰な「需要情報」が原材料価格にストレスをかけ、世界的な商品インフレに拍車をかけた可能性も指摘し、「合成の誤謬」が発生している可能性を指摘したわけである。
つまり、コロナ禍でサプライチェーン問題が起きている過程では、需要を増幅させる方向で「正のブルウィップ効果」が発生した可能性が高く、さらに、今次局面で状況を一段と悪化させる可能性があるのが、「負のブルウィップ効果」である。
アメリカでは過剰消費や過剰生産が終わりに近づいているだけでなく、コロナ禍の巣ごもり消費の反動減やコストプッシュ型のインフレ高進、FRBの急激な利上げの影響で家計の消費マインドが急激に悪化している。そのため、小売業の在庫圧縮は「正常レベル」への回帰にとどまらず、通常よりも低い水準にまで進む可能性がある。
小売業での大幅な在庫調整が卸売業やメーカーレベルでの減産要因となり、メーカーレベルでも在庫圧縮が行われ、その先の部品メーカー、素原材料の調達まで影響が波及すれば、需要不足によるデフレ圧力が大きくなる可能性もあるだろう。
コロナ禍前後の経済のアップダウンが急だったことにより、在庫増と在庫減も短期間に急激に生じるリスクがある。「ダブル・ブルウィップ効果」と言えそうな状況である。
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