中国と北アフリカとは大きな違い、だが格差の解消、蟻族の生活改善が急がれる《アフリカ・中東政情不安の影響/専門家に聞く》

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細川美穂子・みずほ総合研究所中国室研究員

中国へ波及するかどうか関心の高いところだが、北アフリカとの違いがいくつかある。

第1に、中国は事実上の共産党一党独裁ではあるが、個人独裁ではない。ここ20年は、任期は5年、70歳になったら引退、など任期制や年齢制限である特定のポジションに長くとどまることができないようなルールも作ってきた。1989年の第二次天安門事件前後には、「中央顧問委員会」があり「八老治国」など長老支配といわれる状態にあったが、そのような仕組みは廃止し、世代交代や人事の改革を進めている。

第2に、経済成長しながらも格差が開き、分配が公平でないという大きな問題はあるものの、まだ全体の所得の向上が続いている。したがって、経済成長に賃金の伸びが追いつかないという不満はあるが、ある程度、所得の向上も期待できる。
 
 2010年に都市部で7.8%、農村部で10.9%という所得の上昇率であったことが発表され、まだ都市部と農村部で3.2倍の格差があるが、所得は5年で6割、10年で倍程度は伸びており、同年のCPI(消費者物価指数)上昇率が3.3%となった中で、実質所得も伸びている。

第3に、別の見方をすると、良くも悪くも政府が混乱に対する対応力をつけ、治安維持体制が非常に強固であることがあげられる。中国には公共秩序攪乱罪があり、05年には8万7000件が該当したというデータがある。ただし、これ以降のデータはなく、公表されていない。しかし、1日200件以上の何らかのデモや暴動が起きていることになる。給与の遅配や冤罪事件や粉ミルク事件のような消費者被害・公害など不満の元になることがあり、座り込み、鉄道や道路の封鎖、リンチ事件などの実力行使事件は日常茶飯事だ。

そのため、北京オリンピックや上海万博、新中国建国60周年などさまざまなイベントを乗り越えるに当たって、ネットやメールの規制、カメラの押収(撮影画像・映像の消去)など混乱を抑えるためにおカネや人をかけている。最初は小規模な集会でもそれが体制を脅かす事態に発展するリスクを十分に承知しているので、敏感に対応している。
 
 例えば、1999年4月に法輪功という気功集団が中南海(政府や党の本部がある)を包囲した事件で、その動員力に衝撃を受け、弾圧する事件があった。こうした事件や、ポーランドで自主管理労組「連帯」の活動が共産党政権の崩壊に繋がったなど東欧革命の事案などを詳細に深く分析して、事前に芽を摘むようにしている。そのため、今回も、集会を呼びかけた人をすばやく逮捕している。

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