自死した17歳バレー部員、遺族が納得できない訳 暴言指導の顧問に処分は下るも、残った課題
他にも、その後の県教委の調査で、翼さんが在籍する以前にも、同校で元顧問の指導のまずさがうかがえる別の事実が報告されている。つまり、学校側の対応次第で、翼さんがA氏と出会わずに済むチャンスはいくつもあったのだ。これについて翼さんの父・聡さんは、
「そうした教員だとわかっていれば、指導を任せたりしませんでした。(A氏を)処分しようと思えばできたのに。その機会をことごとくスルーし、彼の過去を僕らに報告しなかったことは大きな罪です」
と憤る。
翼さんが亡くなった際、A氏による不適切な指導の様子が書かれた県教育委員会の調書が出された。そこには「おまえのせいで負けた」「部活やめろ」といった数々の暴言、さらに、助言を求めても無視するなど生徒を心理的に追い込む行為があったことが、合わせて44項目も挙げられている。しかし、学校側は遺族らに対し「指導に問題はなかった」と言い続けた。
このように、学校関係者がかばい続けたことも手伝ってか、岩手の件は初動調査が遅々として進まなかった。第三者委員会が開始されるまで半年以上を要し、そこでA氏の不適切な指導が自死の要因と認定されたのが2020年7月。そこからA氏の処分決定までさらに2年を費やした。
ここまで動きが遅いことについて、翼さんの事件を担当してきた草場裕之弁護士は、部活動における暴言について軽視する関係者が少なくなかったことが理由にあるのではないかと指摘する。
「指導に問題はなかった」と繰り返した学校側
翼さんの自死がわかった後、当時の教育長は同事案に対する質問を受けた県議会などの公の場で「指導に問題はなかった。(自死は)翼さんのこころの問題だ」と繰り返し発言している。当時、草場弁護士はそれにも驚いたという。
「A氏は翼君を殴ったり蹴ったりしたわけじゃない。だから問題ないだろうという見方だったと捉えました。私が知る限りでは、教員側から反対意見が出たとは聞いていません。岩手県の教育関係者の上層部が、暴言などパワーハラスメントへの認識が甘かったと言えるのではないでしょうか」
上述した「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」、実は暴力行為の定義について「言葉や態度による人格の否定、脅迫、威圧、いじめや嫌がらせも含める」と通達されている。残念ながら、翼さんの問題ではそれがトップたちに理解されていなかったようだ。
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