自死した17歳バレー部員、遺族が納得できない訳 暴言指導の顧問に処分は下るも、残った課題

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日頃、中高の教育現場を取材する筆者も、いまだ「声が大きい人」が管理職から「力のある教員だ」と評価されることがあると感じる。高圧的な指導でまだ人生経験も浅い生徒を萎縮させることで、生徒を強引に統制する。それをよしとする文化が学校現場に残る限り、パワハラの火種は残り続けるのではないか。

翼さんが亡くなった当時、月命日に遺族へ手紙を書き送っていた同校教員もいた。受け取るたび、その思いやりに涙したという父の聡さんだが、A氏の懲戒免職とともにその教員は戒告処分にされた。

「処分決定に時間がかかっている間に定年を迎えた人たちは何も処分されず、現役の教員だったばかりに処分を受けてしまったのです。本来、責めを負わなくてはならないのは誰なのでしょうか」

これらの件について、同県教育委員会教職員課に話を聞いた。筆者の取材に対し「ご遺族の思いは聞き及んでいるが、すでに教職員ではない方には、法的には懲戒というかたちでは処分できない」と答えた。

「それ以外に何があるかということも、申し上げる段階ではない。報道があったので、当時の関係者は承知はしているはず」(同)

遺族への謝罪は行われていない

A氏から遺族への謝罪はいまだにない。

「弁護士の方を通じて、謝罪を求めてきましたが、返事はありません。心の底から悪かったとは思っていない、としか思えません。私たち家族は、彼の考えが変わることはもう諦めています。あとは引き続き、再発防止策定委員会に出て、過去の学校長らの不作為について解明していくよう働きかけていきたい」(聡さん)

教育委員会や管理職などのトップ層が、正しい認識を持つことが重要だ。それは、生徒の命を守ることはもちろん、部活動に熱心にかかわる指導者たちを誤った行為から守ることにもなる。岩手のこの事案が、人の命を奪うほどの暴言が蔓延する日本のスポーツに与える影響は決して小さくない。

島沢 優子 フリーライター

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しまざわ ゆうこ / Yuko Simazawa

日本文藝家協会会員。筑波大学卒業後、広告代理店勤務、英国留学を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。主に週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係等をフィールドに執筆。

著書に『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)など多数。

 

 

 

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