50代で銀行員→アートへ、彼の転身に感じた意味 他己評価に縛られない自己の年齢の重ね方が大切

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ライフサイクルで考えてみると、人生のステージでは若いうちに大きなイベントが続く。子ども時代、学生時代、学校卒業後の就職、結婚して家庭を持ち、子どもを育てる人も多い。教育を受けて社会的な活動を続けながら中高年以降の長い時期を過ごすことになる。また人生で何ができるかという観点で見れば、体力や気力が衰え始めてからずいぶん長い人生が残っている。

若い時のように、正解は1つしかないと考えて、目標達成のために効率一辺倒で取り組もうとすれば、その後の老いや死に対応できなくなる。老いや死とどのように折り合いをつけていくかを中高年の時期に検討しなければならない。

世の中も変わるが自分自身も歳を取って変わる

やはり、今までとは異なる顔を持つことや、もう1人の自分を発見するという転身が大切になってくる。逆に、中高年のタイミングで自分の位置づけを変更、修正できれば、スムーズに老年以降に移行できるのではないか。

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世の中はもちろん変化するが、何よりも本人が歳を取ることによって変わっていく。私も文章を書き始めた50歳と現在の68歳では相当変わった。作家の五木寛之は、浄土真宗の宗祖である親鸞の思想は85歳と25歳で大きく違っているという(『作家のおしごと』)。人生の各ステージには、それぞれにふさわしい過ごし方がある。少年期の成長、青年期の大志と不安、壮年期の充実、中年期の成熟、高年期の老成など、しかるべき人生のステージに応じて変化しなければならない。

環境変化よりも自分の変化、それも加齢によるものが大きいのではないか。逆に言えば、よりよい歳の取り方がいちばんのポイントである。こうして論じている転身も、最終的には魅力的な年齢の重ね方に関係していく。

そういった意味では、中高年以降は、間違っても社会や他人の評価、または効率がよくて有利だからといった側面だけで考えてはいけない。自分の年齢の重ね方はどうかという自問自答がとても大切になってくる。

前回:元警官のカレー店主がディズニーで下積みした訳(7月2日配信)

前々回:山崎邦正⇒月亭方正の転身の裏に見た絶妙な導き(6月25日配信)

楠木 新 人事コンサルタント

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くすのき あらた / Arata Kusunoki

1954年神戸市生まれ。1979年京都大学法学部卒業後、生命保険会社に入社。人事・労務関係を中心に経営企画、支社長等を経験。47歳のときにうつ状態になり休職と復職を繰り返したことを契機に、50歳から勤務と並行して「働く意味」をテーマに取材・執筆・講演に取り組む。2015年に定年退職した後も精力的に活動を続けている。2018年から4年間、神戸松蔭女子学院大学教授を務めた。現在、楠木ライフ&キャリア研究所代表。著書に、『人事部は見ている。』(日経プレミアシリーズ)、『定年後の居場所』(朝日新書)、『定年後』『定年準備』『転身力』(共に中公新書)など多数。

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