50代で銀行員→アートへ、彼の転身に感じた意味 他己評価に縛られない自己の年齢の重ね方が大切

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百貨店の催事場での展示を行う回数も増えて売り上げも右肩上がりになったが、退職前の金融機関の収入には遠く及ばない。それでも本物に触れる喜びと感動に関わっている実感がある。今後は、海外の人形職人を日本に招待し、人形制作の実演をしてもらう企画を考えたいという。

百貨店の展示会でお客さんに笑顔で応対する中村さんの姿を見て、過去の金融業界での営業の経験を活かしていると感じた。人はずっと同じ位置に立ち止まっているわけではなく、年齢を経ながら変化していく。日米の金融機関の仕事のやり方は昔からそれほど変わっていないだろうが、中村さんが年齢を重ねることによって、自分が求めているものが異なってきたのだ。

またアートの世界には昔から関心があったとしても、残りの人生の年数を勘案することによって次のステップに動き出している。転身する1つの大きな要素は加齢ではないかという感覚が私にはある。

若い頃はマネジメントなんか大嫌いで、現場の工場において一人で職人的な仕事をすると決め込んでいた人が、50代になって「人にものを教えるのは、おもしろいなあ」と言って若手に技術を伝えることに意味を見出しているケースもあるのだ。

老いや死に対応

寿命100年時代の人生戦略を説いた『ライフシフト』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著)がベストセラーとなったように、昨今、テレビ番組や書籍、雑誌で転身がクローズアップされている。だがそれは、単に寿命が延びているからだけではないだろう。会社内や家庭生活でもIT(情報技術)の進展や昨今のコロナ禍におけるリモートワークなどの変化は激しくて、今までと同じやり方ではついていけない状況になっている。

また社会においても、地域や会社などの共同体に長くいれば長老などと敬ってくれる時代は終わっている。そう考えると、日本の戦前の家制度も自由が制限されたデメリットはあったが、「○○家」の枠内では自分の死後も子孫が守ってくれるという安心感はあったのだろう。今や共同体は弱体化しているので、従来のやり方に固執したままで一生を過ごすことは困難である。どこかで転身をしないと対応できなくなっている。

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