「能率的に死なせる社会」が必要になる

建て前としての"命の平等"は外すべき

──去年、米国で余命宣告された女性の安楽死が話題になりました。

あれは医者が、苦痛を取る薬ではなく自殺目的の薬を処方したのですから、医者の幇助(ほうじょ)による自殺です。

それじゃ日本ではどうしてるかというと、耐えがたい苦痛がある場合は眠らせて意識をなくしてしまう。その薬を一度やめて、目が覚めてもやっぱり苦しいならまた眠らせる。そうしてるうちに亡くなってしまう。二度と目が覚めないことを前提に眠らせる行為と、その段階で殺してしまうのとで何が違うかというと、あんまり違わないかもしれない。

──日本では対応能力が限られる中、今後高齢の死者が急増します。

命は平等かという問題について、私も揺れ動いてるところはあります。ただ建前としての“命は平等”というのはもう外してもいいのかな。現実問題、すでに平等じゃない。

救命センターの研修医時代、パンク寸前で受け入れ制限せざるをえなくなったとき、指導医はこう指示しました。労災は受ける、自殺は断る、暴走族の“自爆”は断る、子供は無条件に受け入れると。僕もそれを正しいと思った。現実的に命に上下は存在すると思っている。老衰の人に点滴して抗生物質使って、無理やり生かしてどうする? はたしてそれがいいんですかね? 貴重なベッドを老衰患者でずっと塞いでしまうことが。

──医学的な重症度以外に、社会的な価値も考慮に入れるべきだと?

実質的にはみんなそう思ってやっています。家族に「もう歳だからあきらめる」と言わせて、あくまで家族の選択として苦痛だけ取ってお見送りする。医者は患者の価値を決めちゃいけないと建前上なってるから、家族にそう言わせてるだけです。

90とか95の老人をさらに生かす見返りに、働き盛りの人にあきらめてもらうのは、やっぱりおかしいですよ。アル中で肝臓悪くした親父が子供や嫁さんからの肝臓移植を希望する。好き勝手した人間がそこまでして長生きしたいと言う。敏感な人が遠慮して身を引き、鈍感な人がのさばるなら、それはもう不公平でしょ。生きたいという意志を無条件で尊重しなきゃいけないかというと、できることとできないことがある。

「能率的に死なせる社会」が必要だ

──矛盾と疑問だらけの現実に、今後どう対処していくのでしょう。

『医師の一分』新潮新書(720円+税/205ページ)

僕が役人だったら、能率的に死なせる社会のことを考えますよ。だってそうしないと間に合わねえもん。

ただ現場の医者として、それは怖い。この患者はここまで治療すればOKという明確な方針で進めてしまうと、僕はナチスになりかねない。自分はがん専門だからまだラクで、慢性腎不全なんか診てる同僚は大変ですよ。90歳で判断能力もない患者を押さえ付けて透析して点滴して、もう10年やってるから今さらやめるわけにはいかない、家族も決められない。今日び医者は訴えられるのが怖いから、逃げにかかって延命措置をする。

──結局、誰かがどこかで線を引く日が来るのでしょうか。

誰か考えてるんですかね? たぶん左右両極端には行けず、宙ぶらりんのまま状況見て、多少右へ左へってことをやっていくんだと思う。それとも何とかなっちゃうんですかね。今では孤独死を、それでもいいと思う人が増えてるように、日比谷公園で一晩に3人5人死ぬことに慣れちゃって、そんなもんだと思うようになれば、キャパうんぬんも何もどうとかなっちゃうのかもしれない。

仮に医者が安楽死させるなら、良心の呵責(かしゃく)に苦しみながらやるべき。自分を守るためにガイドラインを作れ、法律で決めてくれというのは違うんじゃねえかな。今の国会議員に僕は人の命なんか決めてほしくねえや。結局、今そこで患者を診ている医者が、引導を渡す役を引き受けるしかないんじゃないですかね。

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