終末期患者を看てきたナースが思う「幸せな最期」 「つらい終末期を明るくすることはできる」

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当時、まだ結婚前で交際中の時期に、彼女の母親が余命わずかであることを知った前田さんは、「亡くなる前に娘の晴れ姿を見せて、安心させてあげたい」と、急きょプロポーズ。婚約した彼女とともに、義母に「フォトウェディング(記念撮影のみの結婚式)」を贈ることにした。

その計画を義母に伝えると、「お母さん、撮影の日までがんばるわ」と張り切り、早速入院先に外出届を出しに行くほど足取りが軽やかに。

「彼女の衣装合わせにも同行するぐらい、いきいきとし始めたんです」

だが、がんの進行までは食い止めることはできなかった。次第に肺に水がたまり、呼吸がしづらくなると、体力はガクッと低下。寝ている時間が増えていった。

ベッドの上で天井をぼーっと見つめる義母の姿を目にするたび、胸が痛んだ前田さん。寝ている義母が少しでも楽しい時間を過ごせるようにと、病室にプロジェクターを持ち込み、天井に写真を映すことにした。

病室の真っ白な天井に投影したのは、娘や息子たちの子ども時代の写真。彼女の実家の家族に頼んで、数百枚もの写真を集めたのだ。

3人の子どもたちが生まれたときからの成長の記録をスライドショーにして映し出すと、義母は「わぁ、懐かしい。皆ちっちゃくてかわいいわね」と声を上げ、しばし昔話に花を咲かせた。

「天井シアター」のアイデアは功を奏し、病に苦しむ義母を元気づけることができた。

身体の痛みが不思議と消え、一気に元気に

フォトウェディング当日は、身体の痛みが強く、起き上がるのもつらい状態だったが、痛み止めで抑え、なんとか無事に写真館に到着。少し前の元気だった頃の髪型に似たウィッグをつけ、黒留袖を着付けてもらうと、すっかりやせ細っていた義母が一気に華やいだ。

そこに鮮やかな赤地の色打掛を羽織った娘が登場すると、「あら、馬子にも衣装ね! 成人式のときと同じで赤がとっても似合うわ!」と、一段と声が弾んだ。

念願の撮影タイムでは、母と娘のツーショット撮影も行われた。母が娘の手を握りしめると、感極まった娘が思わず涙する場面も。母と一緒に晴れの日を迎えられた喜びと、もうすぐ別れが近づいていることの悲しみが入り混じったようだった。

撮影時、母は娘の手を握りしめた。思わず感極まって涙する花嫁(写真:前田和哉さん提供)

「体調のことを考え、和装の撮影が終わったら、義母は病院に戻る予定でした。でも、彼女の晴れ姿を見て気持ちが高揚したのか、『洋装の撮影も見たい』と言い出したんです。朝の痛みに耐えていた姿が嘘のように思えるほど、調子がよくなりましたね」

次ページ撮影の日から3週間後…
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