急増する「社員インフルエンサー」7つの危うさ 誹謗中傷、過重労働、社内孤立、退社トラブル…

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また、ある企業のマーケティング担当者から、「うちの女性社員がストーカー被害に遭ってしまい、SNSを辞めたことがある」というエピソードも聞きました。プライバシー保護やストーカー対策は、社員インフルエンサーを登用する企業の必須条件でしょう。

どれだけ順調に見えても一寸先は闇

7つ目の危うさは、アカウントやフォロワーの引き継ぎトラブル。まず社員インフルエンサーが使用するSNSは、企業のアカウントなのか。それとも、個人のアカウントなのか。出発点すらあいまいなケースが少なくないようです。

問題は退職や他部署への異動の際、トラブルに発展しやすいこと。たとえば、「退職とともにアカウントとフォロワーを引き継がず、ごっそり持っていかれてしまった」と嘆く担当者の声を聞いたことがあります。退職の理由が、独立にしても、同業他社への転職にしても、企業にとっては大問題でしょう。

また、裏を返せば、「社員インフルエンサーに力を持たせることが、独立や同業他社への転職などのきっかけを与えている」という見方もできるでしょう。このあたりは社員インフルエンサーを登用する最初の時点で明確にしておくべきことであり、すでにはじめている企業も今すぐにリスクを排除しておいたほうがいいでしょう。

ここまで「人事と育成」「過重労働」「社内での孤立」「業界への配慮」「あいまいな評価指標」「誹謗中傷」「アカウントやフォロワーの引き継ぎ」という7つの危うさを挙げてきました。情報を受け取る対象が顧客だけではなく不特定多数だけに、やるほうの社員も、やらせるほうの企業も、知識と覚悟が必要。とりわけ企業は、良くも悪くも矢面に立つ社員への十分なケアが必要でしょう。

最後に、「なぜ華やかな事例とメリットのみをピックアップするメディアが多いのか」についてもふれておきます。その理由は、単純にこのニュースが「新しい動きで、華やか」だから。

もともと最新のトピックスを報じるときは、「なぜそういう動きがあるのか」を説明するために、メリットを中心に構成する形になりがちです。さらに今回の社員インフルエンサーというトピックスは、「生き生きとした表情でSNS投稿する人々の姿を見せることで、華やかな印象が加わる」という報じる側のメリットもありました。

しかし、うまくいっていると思っていても、一寸先は闇。いつトラブルが起こり、それが大問題に発展しかねないマーケティング戦略であることを忘れず、細心の注意を図りながら進めていくべきでしょう。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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