「政治的暴力」が多発、脅威が増大するアメリカ テロは国外から国内へ、3つの要因が引き金に

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2001年の同時多発テロ事件以降、アメリカ政府はアルカイダやIS(イスラム国)など海外の過激派組織の脅威にフォーカスしてきたが、近年は国内テロ組織への対策に大幅に舵を切っている。

議会乱入事件では、法執行機関が800人以上をすでに起訴。政府が厳格な対策を打ち出すことである程度、政治的暴力を抑えることはできるかもしれない。だが、今後、パンデミックが沈静化していくとともに徐々に政治的暴力も拡大するとも、一部専門家は予想している。銃があふれているアメリカ社会では、政治的暴力における凶悪犯罪のリスクは高い。

11月中間選挙から2024年大統領選は要警戒

6月上旬、国土安全保障省は国内テロの脅威が今後ますます高まるリスクについて「国家テロ勧告システム」(テロに関する脅威情報を発信)の公報で警鐘を鳴らした。

国土安全保障省は11月の中間選挙、人工妊娠中絶に関する最高裁判所の判決、アメリカ南部国境から流入する移民の拡大など今後半年間の主要政治動向が暴力拡大の引き金となる可能性があるという。

うち人工妊娠中絶については、6月24日に最高裁判所が中絶の権利を認めない判断を下した。今のところ大事件は起きていないが、判事や州政府高官に対する暴力拡大リスクについて、同日、別途、国土安全保障省は法執行機関に警告を発した。

中間選挙は共和党の勝利が確実視され、全体では接戦とならないことから、政治的暴力は限定的かもしれない。だが、議会乱入事件は政治的暴力の終焉ではなく、政治的暴力の幕開けであるとみたほうがいい。政治的暴力の条件が揃う今日、特に再び接戦も予想される2024年大統領選前後には、政治的暴力拡大のリスクが高まるであろう。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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