「2015年くらいから日本のプロ野球チームが導入を始めましたが、はじめはみなさん半信半疑でした」
星川氏は、アメリカで進化を続けるトラッキングシステムには、以前から強い関心を抱いていた。
「データスタジアム時代に、投手の投球速度や投球軌道を追跡するスピード測定システムであるPITCHf/xがMLBで普及しだした。これはすごいと思って会社に事前に許可を得て、開発したスポーツビジョン社に連絡をして、MLBのウィンターミーティングに英語もできないのに一人で乗り込んだ。
ウィンターミーティング開催中のホテルのスイートルームで、作った資料を見せて一緒にやろうと持ち掛けたんですね。それがトラッキングシステムとの出会いでした。その時のスポーツビジョンの担当者は僕と同い年で現在はMLB(リーグ)で働いていますね、たまに連絡をとっています」
イチローがMLBで活躍していた時代、MLBの公式サイトでは投手の投球の軌道をオンタイムで表示していたが、これがPITCHf/xだ。2006年からMLB30球団で導入されていた。このシステムがトラックマンに置き換わったわけだ。
しかしPITCHf/xは日本では普及しなかった。アメリカでは「スポーツの情報化」は猛烈な勢いで進んでいるが、日本では普及は遅々として進まなかった。
日本とアメリカで野球に対する文化が大きく異なる
「データスタジアム時代はPITCHf/xだけでなくセイバーメトリクス系(統計学に基づいたスポーツデータの分析学)のデータもいろいろ紹介したんですが、なかなか受け入れられなかった。トラックマンの導入はそれから数年経っていましたが、状況はあまり変わらなかった。
正確な理由はわかりませんが、一つは文化の違いだと思います。日本とアメリカでは“ファンが何に感動するか”が全然違う。日本は“汗と涙のストーリーに感動”するわけですが、アメリカはそれだけではなく選手のパフォーマンスそのものとそれを数字で表現する習慣が末端の野球ファンまで浸透している。ファンが求めるものが違うんですね。
それから市場、ビジネスの違いもありました。MLBは全米とカナダに30球団あります。その傘下にも多くのマイナー球団がある。選手がたくさんいて、しかも雇用の流動性が高いので、常に多くの選手が移動している。選手を売る側・買う側がより良い取引をするためには、選手のパフォーマンスを数値化しないといけなかったんです。選手の評価は株価みたいなものです。選手の将来をふまえた現在価値を算出している。
これに対しNPBは12球団しかないし、市場に出てくる選手の数はすごく限られています。トレードも少ないし、自由契約になった選手は、数字で評価しなくてもプロのスカウトが普段から見ているのである程度わかります。
日本のプロ野球選手は1000人しかいませんが、MLBはマイナーなども含めれば1万人以上もいます。また契約をする球団も、アメリカでは定性的な評価もしますが、データ、数字も非常に重要な要素として参考にします。しかし日本の場合、必ずしも数字に重きをおきません。チームとの相性、人柄、学歴などもふまえて判断します」
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