若い頃の文夫さんは音楽家を志し、肉体労働のアルバイトで生計を立てていた。家族3人での貧乏暮らしはいとわないつもりだったが、妻はそんな生活を嫌がり、出産を終えても実家から出てこない。
文夫さんは夢をあきらめて金融機関に就職。完全歩合制の営業マンとして働き始めた。しかし、妻はやはり安穏な実家から出ようとしない。稼いだお金はすべて妻に渡して文夫さんは小遣い制で1人暮らしを続けているうちにお互いの気持ちが離れていった。
この苦い経験で、文夫さんはやや偏った「結婚の条件」を見いだす。再婚するならば、一人っ子だけは避けるというものだ。
「前妻は一人娘でわがままだったからです。あと、短気でない人。離婚した後で付き合って8カ月ほど同棲をした女性もいますが、僕の足音がうるさいと怒りを爆発させるような人でした。癇癪持ちは困ります……」
スマートで社交的なのに少年のように純真で世間知らずなところがある文夫さん。我が強い女性を惹きつけやすいのかもしれない。そのことを自覚しているだけに、文夫さんは「きょうだいが多め」で「おおらかでちゃんと会話ができる」女性であることを条件としたのだ。
加奈子さんは4人きょうだいの2番目。大学卒業後に入社した金融機関で24年間働き続けている。文夫さんとはほぼ同業だ。長く営業の仕事をして成果を出し、現在は後進を育てる業務に就いている。
「文夫さんは30歳のときにこの業界に入ったので、キャリアはまだ14年目。私もこの頃はこんな感じだったなとわかります。応援したくなりますね」
短気なほうだと自覚している加奈子さんだが、年下で業界の後輩でもある文夫さんに対しては優しい気持ちで接することができている。その基本スタンスを文夫さんは「おおらかでちゃんと会話ができる」と感じているのだろう。
30代後半までは結婚に焦りはなかった加奈子さん
独身1人暮らし生活が長かった加奈子さん。営業という仕事柄、平日は社内外のさまざまな人と会わなければならない。土日は1人でゆっくりと心身を休めることでバランスが取れていた。寂しさは感じなかったと振り返る。
「30歳までの3年間ほど同棲していた人もいました。でも、話し合いができない人だったので結婚するのは無理でした。30代後半までは同期入社の女友達とつるんで旅行もしていたので結婚に焦りはありませんでした」
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