「年収900万円で、以前はもっと稼いでいたと聞いています。娘さんへの養育費を払うのは当然ですが、40歳過ぎていて貯金が1000万円もないのはお金の使い方がおかしいんじゃないかと思っていました。結婚してこっちがコツコツ貯めても、相手が浪費家だったら問題ですから」
最終的には「この出費がずっと続くわけではない」と加奈子さんは判断し、結婚に踏み切ることにした。2LDKの新居は家賃と光熱費を文夫さんが支払い、食費などはそれぞれ出して共同のお金がどれだけ出ていくのかをチェックしている段階だ。
「でも、前の奥さんにはお金を預けていたのに私には預けてくれないんだよね」
シンハービールからの焼酎を飲みすぎたのだろうか。加奈子さんはニコニコ笑いながらもやや絡み酒になっている。
文夫さんを興味深く見守る加奈子さん
加奈子さんは朝8時から夜8時まで職場で仕事がある。一方の文夫さんは出社義務はなく、基本は在宅ワークだ。掃除、洗濯、料理を苦もなく担っている。出勤ついでにゴミ出しをお願いされたとき、「私のほうがダンナさんみたいだな」と加奈子さんは思った。
「文夫さんは会社にあるような事務机を新居に置いているんですよ。意味がわかりません。もっとおしゃれなやつがあったでしょ」
あの机のほうが集中できるんだ、と明言する文夫さんを加奈子さんは興味深そうに眺めている。豪快なようでいて本質的には心配性で世間との違いも気になる女性なのだろう。かつては芸術家を目指していた文夫さんはどこかタガが外れた部分がある。加奈子さんはそれを面白がり、頼り、応援し、時にはブレーキをかけるのだ。
「特別養子縁組という手もある、と話したら、彼は徹底的に調べて支援団体に話を聞きに行く手はずを整えてくれました。子どもが欲しくて婚活をして結婚しましたが、今は夫婦2人の家族でもいいかも、と思っています」
条件で相手を検索するのが婚活である。しかし、かけがえのない家族になったという実感は条件を超えた何かによってもたらされるのだろう。
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