鋼材価格、1トン当たり「10万円以下」に戻らぬ事情 取引先からは強気の値上げ姿勢に不満の声も

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こうした事情は日本製鉄も同じ。同社はひも付きと呼ばれる大口顧客との相対契約で、従来の後決め方式(4~9月分の価格が8月頃決まる)を先決め方式に変更中。先決め価格は4~9月に20%弱の値上げで決着していたもようだが、「足元の原料価格は前提より大幅に高い。もう少しお願いする」(森高弘副社長)と一段の値上げを進める構えだ。

中堅自動車メーカー役員は「鉄鋼メーカーは自分たちの利益だけを押し通しているように感じる。サプライチェーン全体のことを考えてほしい」と苦言を呈する。一方、鉄鋼側の言い分は、「本来得るべき利益を得ていなかったこれまでが異常だっただけ」であるが、顧客側に不満が高まっていることも事実だ。

もっとも、足元の鉄鋼需要は強くない。中国のロックダウン、半導体不足による自動車減産の長期化などが逆風となっているからだ。6月3日には日本製鉄が、鉄鋼需要の回復遅れを理由に、改修中の名古屋製鉄所第3高炉の再稼働を当初の6月末予定から延期すると発表した。

値上げで「暴利」をむさぼるわけではない

海外の鋼材市況は乱高下している。ロシア・ウクライナ戦争を受けて欧米ではパニック買いで市況が一時急騰、その後も高値圏で推移している。

対して、中国・アジア市況は中国のロックダウンの影響などから低調で、値上がりが続く日本に比べると現状はアジア市況のほうが安い。ただ、海上輸送費の高騰に円安も手伝って、日本に輸入鋼材がどっと流れ込む事態にはなっていない。

日本の鉄鋼メーカーは、ここ数年で高炉休止を進めるなどして損益分岐点を下げた。結果、操業維持のために値下げをする必要がなくなったため、需要低調の中でも値上げを打ち出せるようになった。

もっとも、これで高炉メーカーが暴利をむさぼるというわけではない。2023年3月期の販売数量は微減の見通しのため、鋼材価格の引き上げは川上のコストアップ分をカバーできるか微妙な情勢だ。

では、この先も鋼材価格は右肩上がりとなるのか。カギを握る2つの要因がある。

次ページ2つはどんな要因なのか?
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