史上最古の数学者はオプション取引の元祖だった 「学者は貧乏」と言われ、儲けられることを証明

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しかし、この方法は「賢人」と呼ばれた人とは思えない方法だ。なぜなら、ピラミッドの影の大半はピラミッドに隠れてしまうから、この方法で計測するには、1辺に平行に影が差し込んでいるとき(南中)を狙うしかない。

ターレスはもっと賢い方法、つまり、棒とピラミッドの影を2回に分けて計測したのではないか。たとえば影の先端同士を結んだ長さをx、yとすると、それぞれの長さは比例するから「1:P=x:y」になる。これは「空間図形の相似」と呼ばれている。

(イラスト:『数学者図鑑』より)

「金儲けなど、いつでもできる」ことを証明

数学者図鑑
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今では偉大な数学者として知られるターレスだが、実はとても貧乏だった。あるとき「学問をしてもお金持ちになれないのね」と言われ、「金儲けなど、いつでもできる」ことを示そうとした。

ターレスは天文学の知識から、翌年のオリーブは豊作と予想。前年の間に島のオリーブ圧搾機をすべて借りる約束を交わした。翌年、豊作となり、農民たちはターレスから高い価格で圧搾機を借りざるをえなくなった。

ターレスは「学者はいつでも金儲けはできるが、貧乏なのはお金に無頓着なのにすぎない」ことを証明した。

事前に将来の高値(あるいは安値)を見越して権利を一定価格で先に買っておく方法は現在オプション取引(デリバティブのひとつ)と呼ばれ、ターレスは哲学、数学だけでなく、デリバティブ取引の祖ともされている。

(イラスト:『数学者図鑑』より)
本丸 諒 サイエンスライター

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ほんまる りょう / Ryo Honmaru

横浜市立大学卒業後、出版社に勤務し、サイエンス分野を中心に多数のベストセラー書を企画・編集。独立後、編集工房シラクサを設立。サイエンス書を中心としたフリー編集者としての編集力と、「理系テーマを文系向けに<超翻訳>する」サイエンスライターとしてのライティング技術には定評がある。日本数学協会会員。著書(共著を含む)に、『意味がわかる微分・積分』(ベレ出版)、『数と記号のふしぎ』『マンガでわかる幾何』(SBクリエイティブ)、『統計学はじめの一歩』(かんき出版)、『文系のための統計学の教科書』(ソシム)、『すごい! 磁石』(日本実業出版社)などがある。

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