長生きする地域の人が「食べないモノ」の共通点 ブルーゾーンの人は何を食べ何を食べないのか
ワイオミング大学で行われた2018年の研究では、研究者たちがマウスのミトコンドリアを調べたところ、体内の鉄量が多いマウスはミトコンドリア内の酸素が不足していることがわかった。また、脳の神経細胞が失われるハンチントン病のマウスを調べたところ、そのマウスのミトコンドリアにも鉄が過剰に蓄積されていた。
ミトコンドリアの機能が低下したために、ニューロンが死んでしまったのだ。ミトコンドリアが酸素にアクセスできず、エネルギーを産生できなければ、細胞は死んでしまう。このことはパーキンソン病やアルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(略してАLS、ルー・ゲーリッグ病とも呼ばれる)などのほかの神経疾患を理解するための道筋を示している。
動物性タンパク質を減らすメリット
実際にヒトを対象とした研究では、加齢に伴い血液中の鉄量が増えると、アルツハイマー病の発症リスクが高まることがわかっている。また、アルツハイマー病ではない人でも、脳機能イメージング技術によって、認知機能障害と鉄分の蓄積との間に一貫した相関関係があることが明らかになった。
脳内の鉄分過多に関連したフェロトーシスという細胞死も新たに認識されつつある。
さらに、鉄分が脳機能に及ぼす影響を調べた別の研究では、パーキンソン病患者が献血によって鉄分濃度を減らしたところ、症状が劇的に改善したという結果が出ている。鉄分は驚くほど老化を加速させる。そして動物性タンパク質にはこれが大量に含まれている。
だがもうひとつ面白い話がある。ブラジルの研究者が、鉄分濃度が高く、記憶障害の兆候があるラットに酪酸ナトリウムを全身に1回注射したところ、記憶力が回復したというのだ。
先述したように、腸内微生物叢に適切な食べ物を与えれば酪酸が産生され、それをシグナルとして姉妹であるミトコンドリアにエネルギー産生を活発化するよう指示が出る。
では、ミトコンドリアへの鉄の蓄積は、通信回線が乗っ取られたことを意味するのか。それとも、腸内微生物叢がより幸せで健康になれば、鉄による老化の影響から身を守れるということなのか。驚くべきことに、その両方なのかもしれない。
「牛肉や豚肉、ラムやそのほかの動物性タンパク質の摂取量を減らしてください」と言わなければならないのは、残念なことだ。しかし今までの説明で動物性タンパク質の摂取量を減らすことのメリットについては納得していただけたのではないだろうか。
(訳/川岸 史)
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