「神道」が生きのびるために選んだ「変化」とは何か 宗教性の理解につながる「暗さ」や「悲の力」
なかなか明確な問題意識を持っている。かく言う私も当時はギリギリ20代後半であるものの、こういった同世代は決して多くない。この講座には、そのようなマイノリティーの若者たちがあちこちから集まってきたのである。
それには2017年から2019年の政治状況も影響している。第3次・第4次安倍晋三内閣下で、森友・加計問題や桜を見る会の問題が露呈し、通奏低音のように解釈改憲の危機感が高まっていた。安倍内閣による強権政治が戦前の政治状況を想起させ、かつて国民を精神的に統合しようとした国家神道を批判的に捉え直す需要が生じていたのである。
現に安倍内閣への不信感を抱えた中高年の参加者は散見され、宗教学とはまったく異なる分野の専門家たち(経済学者やクラシックの現代作曲家など)もこのゼミに参集し、質疑応答の時間には今日の政治状況への義憤の声が漏れ聞こえた。まさに時代への危機意識が、この本のもととなる講座を形作っていたのである。
古代・中世・近世の神道史にさかのぼって考える
しかし本書をひも解くと、島薗さんが研究を蓄積してきた国家神道に関する論述は第8章になってから本格的に登場し、それまでは古代・中世・近世の神道史にたっぷりと紙幅を割いている。と言っても、それは単なる通史の概説ではない。「神道はどのように生きのびてきたのか」という鋭利な問いが立てられ、それに沿って選択的な叙述がなされている。
具体的には、(1)古代の朝廷神祇祭祀と記紀神話の成立、(2)神仏習合の進展と中世神道思想の展開、(3)織豊政権から江戸幕府の成立による国家統合祭祀と思想の新展開、(4)明治維新後の神仏分離と国家神道の確立、というプロセスをたどったうえで、最後には『ゲゲゲの鬼太郎』『千と千尋の神隠し』『風の谷のナウシカ』『君の名は。』といったエンタメにおける神道的な要素の顕れまでを射程に入れる。
さすが「ビジネスエリート必読書!」と銘打たれているだけあって、明瞭な筆致と豊かな事例が説得力のある論理展開を支えている。
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