ロシア軍から住民1300人救出してきた牧師の一日 防弾チョッキを着て住民を救出する緊張の瞬間

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開戦6日目の3月1日、ゲナディーはやむなくザポリージャへの避難を決断。その日に立ち上げたのが、教会関係者を中心に避難者で運営するボランティア団体だった。ゲナディーは言う。

「ロシア軍に街を破壊され、私たちはマリウポリへ帰れません。そこで始めたのが、ザポリージャとマリウポリの前線での人道支援でした。大変危険な場所ですが、戦況を確認しながら向かっています」

朝9時から始まるミーティングと祈り、支援物資の積み込み、前線への運搬、広報活動など任務は多岐にわたる。それを支えるのは学生、主婦、教師、エンジニアなど50人ほどのメンバーだ。

救出は砲撃の合間をぬって

5月6日、ゲナディーのチームに連絡が入った。マリウポリから避難する途中の家族が救助を求めてきたのだ。現場は南へ37キロの前線付近。ロシア軍による砲撃が絶えない場所だ。

防弾ベストに身を包み、車2台で幹線道路を走るメンバーたち。市街地を抜け前線に近づくと、全員シートベルトをはずす。万が一砲撃を受けた際、車からすぐに脱出できるよう備えておくのだという。

マリウポリから避難してきた家族を救出する瞬間

午後2時32分、前方左側の草むらに人影が見えた。大きなスーツケースを引いている人もいる。マリウポリの家族だ。

「こんにちは。大変だったでしょう」と声をかけるゲナディー。

「ありがたいことで」と答える女性。

テンポ良く荷物と家族を車に乗せたメンバーに、ゲナディーは出発の合図を出した。わずか2分の早業だった。

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