入学前に作った「キャラ」演じる大学生たちの苦悩 「SNSで大学デビュー」の知られざるわな

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出会い系の場合にプロフィールに記入するのは、年収が高いとか、社会的に威信の大きな職業に就いているといった「ポジティブな要素」でしょう。平成末に生じた変化はネガティブに扱われがちな被差別属性(LGBTや発達障害など)を、あえてSNSのプロフィール欄に記入する人が増えたこと。いわゆるカミングアウトの風潮です。

もちろん、そうした属性を「隠さないと暮らせない」社会は最悪ですから、その点では進歩した面がある。ただ斎藤環さんによれば、精神医療の現場では「カミングアウトしやすい病気/しにくい病気」の格差が、その分深刻になっているそうです。

体験者の多い「うつ」や、メディアで一時ギフテッド(特殊な才能)のように扱われた発達障害は、オープンにしやすい。逆に症例の少ない統合失調症や、「だらしない人」のような偏見にさらされやすい各種の依存症は、いまもカミングアウトしにくく、疎外感が以前より強まっている面さえあるようです。

「絵になる弱者」だけが注目される逆説

これがまさに、マイノリティを「キラキラさせる」ことでPRする社会運動の限界でしょう。視覚的に華やいだ演出が可能な「絵になる弱者」だけが注目と共感を独占し、本当に苦しい人たちの存在は不可視の場に追いやられる。

これはコロナ禍でも見られた現象で、医療関係者の多忙さはドラマチックに描けますから、メディア上で日々流されて自粛を煽ることに利用される半面、夜の街に勤める人の困窮ぶりは無視されてしまうわけです。

拙著『過剰可視化社会』で掘り下げて議論したとおり、もう1つ、プロフィール上のカミングアウトには気をつけたい副作用があります。LGBTにせよ各種の病名にせよ、なんらかの「タグ」を自分につけて明示することは、時としてその人が得られるべき配慮(ケア)の質を、充実させるのではなくむしろすり減らしてしまう懸念を禁じ得ません。

次ページかかわるのではなく、距離を置くことが「やさしさ」になった
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