岸田首相が描く「健康危機管理庁」に必要な視点 コロナ危機の反省を新組織の設立にいかせるか
では、平時の分権体制を推進するという医療・公衆衛生分野の特徴をいかしつつ、危機時に政府の実動組織を中心とした中央集権体制に転換するには、どのようなガバナンスを採用すればいいのか。
それは、同じ旧内務省系官庁の消防庁に1つの解がある、と筆者は考える。
消防行政は、市町村消防が主役であり、分権体制が整備されている。一方、中央には消防庁が存在して消防行政全体を統括している。平素の消防行政は市町村をベースに分権体制で運営されているが、いざ国家的な大規模危機となれば、中央集権体制に転換する柔軟性を備えている。
消防庁長官は、大規模な危機の場合には、都道府県知事や市町村長に対し、都道府県や市町村に属する緊急消防援助隊の出動を「指示」する権限を有しており、「指示権」と呼ばれている。
危機時には中央から指揮する必要がある
消防庁長官の指示権は、2011年の福島原発事故の際に全国の消防の総力を挙げた対応が必要となることに鑑み、当時消防庁長官を務めた久保信保氏によって史上初めて発動された。その内容は、久保氏の著書『我、かく闘えり 東日本大震災と日本の消防』に詳しい。
消防行政の体制は、平時は市町村を主役とする分権体制だが、中央にも実動組織を設置し、職員を十分に訓練し、大規模な危機時には中央から全国を指揮統制する権限を付与している。
国民保護に対して責任を持つ医療・公衆衛生分野の行政を強化するには、ほかの旧内務省系官庁と同様に医療・公衆衛生分野の実動組織を中央に設置し、職員に教育訓練を提供し、大規模な危機時には中央から全国を指揮統制する権限を付与することが必要なのではないだろうか。
国民保護は「国の国たるゆえんのもと」である。最終的にどのような組織形態になるかについては、現在政府内で議論が行われていると思われるが、「健康危機管理庁」という実動組織の創設によって、国民保護の最前線の1つである医療・公衆衛生分野の体制を強化することで、1人でも多くの国民を守ることができると考える。
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