岸田首相が描く「健康危機管理庁」に必要な視点 コロナ危機の反省を新組織の設立にいかせるか
ここで気づくことが1つある。内政上の危機管理を担う旧内務省の後継官庁の中で、医療・公衆衛生行政を担う厚生労働省のみが唯一、実動組織を有していないのだ。コロナ危機であらわとなったのは、国の実動組織がないことに伴う弊害である。
コロナ危機では、医療・公衆衛生行政の分権的体制が問題となった。日本では、医療分野では多くの病院が民間病院であり、公衆衛生分野では保健所や地方衛生研究所は自治体の管轄である。国に付属しているのは検疫所だけだ。危機時にも平時の分権的な体制のまま対応せざるを得なかったことにより、政府が意図したとおりに政策が執行できないという状況が発生したと、ある厚労省幹部は指摘する。
厚生労働省以外の旧内務省系の3省庁は、実動組織を持ち、指揮命令系統も整備されることで、危機に対処するための意図が末端まで伝達されるような組織体制を確保している。これらの実動組織では、中央の幹部から最前線の職員に至るまで教育訓練が徹底されている。つまり、国民を保護する体制を「組織」と「ヒト」の両方の観点で整え、政策執行力を確実にしている。
一方、同様に旧内務省の後継官庁として国民保護を担う責任があるものの、厚生労働省には実動組織が存在せず、職員に対して危機管理に関する教育訓練も行われてこなかった。組織もヒトも十分ではない体制だったのである。
平時体制が危機時も続く問題点
そもそも厚生労働省が所管する社会保障政策に適した人材のプロファイルは、危機管理に適した人材のプロファイルとは根本的に異なるため、採用基準や昇進基準も異なるうえ、扱うビジネスモデルも、求められる知見も異なる。このような場合は、一般的には分社化したほうがうまくいくのであろう。民間企業ではよく見られる事例である。
さらに、民間ベースの医療、自治体ベースの公衆衛生というこの分野特有の障壁が存在した。これは、危機時にはいわば頭と体が首でつながっていないような構造である。ある内閣官房幹部は、危機時の「執行力に欠ける」状態であったと評した。
このように、平時には分権的体制を進めるべきだが、危機時には平時の体制を転換し、中央集権的な体制を構築して執行力を高める必要がある。その解の1つが、政府が検討する「健康危機管理庁(仮称)」という実動組織の創設というわけだ。
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