事業構造をグローバル化し、「値下げ賃下げの罠」脱却--山田 久・日本総合研究所ビジネス戦略研究センター所長《デフレ完全解明・インタビュー第11回(全12回)》
要点
・日本は現状維持の姿勢で「値下げと賃下げの罠」に陥っている
・グローバル市場で儲け、利益を国内に還流する体制に
・政労使とも労働移動を積極的にとらえる発想に転換を
--デフレについてミクロ経済の観点から分析し、「深刻な問題」としていますね。
日本経済はデフレが続いていることで、二つの大きな問題を抱えてしまっていると思う。
一つは財政が悪化していくことだ。景気対策関連の支出は増えるし、税収が減っていく。財政赤字の額は先進国の中で飛び抜けて大きいが、金利が低いために、何とかファイナンスできている。日本国債の金利が低い理由の一つは、国内の貯蓄で賄えていることだが、このまま財政赤字が膨らむと海外から借りなければならなくなる。ファイナンスが困難になれば、大幅な歳出カット、社会保障の劇的な削減を迫られる。
つまり、デフレは財政赤字を膨らませることで将来に大きな問題の先送りをしている。
もう一つの問題はデフレで企業が慎重になり、それが雇用を悪化させているということだ。特に若年雇用に悪影響が及んでいることが問題。日本の場合、労働市場が流動的でないので、若い人の採用を抑制することになる。これも、これからの日本の担い手が能力を身に付けられないので、将来の成長力をさらに落とす要因になる。
--デフレに陥った原因はどこにあると思いますか。
よく、おカネが回らないのは、貨幣が不足しているからだ、中央銀行の金融緩和が足りないからだという批判があるが、量的緩和でもあまり効果が出なかった。これ以上の金融緩和は、通貨そのものの信用を毀損するとか、リターンの得られないところへ資金が回ってしまうなどの問題を引き起こすと見ている。
なぜおカネが回らないかというと、企業がモノを作っても売れない、つまり実体経済において収益性が上がらなくなっているからだ。モノが売れず、安売り競争をする、そのためにコストを削らざるをえず、賃金を引き下げる。賃金を減らされると、家計は消費を減らすので、モノがますます売れなくなる。日本の経済は「値下げと賃下げの罠」に陥っているといえる。