政府直轄軍の威圧力もあり、「根回しなど無用」という西郷の言葉そのままに、電光石火のごとく断行された「廃藩置県」。これで261の藩が廃されて、そのまま県となり、江戸幕府滅亡後は、新政府の直轄地に置かれていた府・県と合わせて3府302県となることになった。
怒りの花火を打ち上げた島津久光
「余は西郷と大久保にだまされた」
久光の怒りはすさまじいものだった。西郷に上京の条件として「廃藩には合意するな」と念押ししたにもかかわらず、むしろ積極的に廃藩を進めているではないか。
だが、薩摩藩兵を親兵としてとられているので、どうすることもできない。久光は憤怒のあまり、自邸の庭で一晩中花火を打ち上げさせている。
大久保はといえば、廃藩置県が断行される3日前の11日に、木戸の意向と思われる参議への再任要請を正式に断っていた。参議となり矢面に立って、久光から怒りをぶつけられることだけは避けたかったのだろう。
久光の憎悪は政府のトップである西郷に向けさせておきながら、大久保が動き出す。廃藩置県によって本格的な中央官制改革が行われると、最大の中央官庁である大蔵省の長官となり、大久保は内政の実権を握る。
そして、西郷に留守を任せて、自身は海外の視察へと出かけ、その眼を世界へと向けていくのである。
(第33回につづく)
【参考文献】
大久保利通著『大久保利通文書』(マツノ書店)
勝田孫彌『大久保利通伝』(マツノ書店)
松本彦三郎『郷中教育の研究』(尚古集成館)
西郷隆盛『大西郷全集』(大西郷全集刊行会)
日本史籍協会編『島津久光公実紀』(東京大学出版会)
徳川慶喜『昔夢会筆記―徳川慶喜公回想談』(東洋文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝全4巻』(東洋文庫)
勝海舟、江藤淳編、松浦玲編『氷川清話』 (講談社学術文庫)
佐々木克監修『大久保利通』(講談社学術文庫)
佐々木克『大久保利通―明治維新と志の政治家 (日本史リブレット)』(山川出版社)
毛利敏彦『大久保利通―維新前夜の群像』(中央公論新社)
河合敦『大久保利通 西郷どんを屠った男』(徳間書店)
家近良樹『西郷隆盛 人を相手にせず、天を相手にせよ』 (ミネルヴァ書房)
渋沢栄一、守屋淳『現代語訳論語と算盤』(ちくま新書)
鹿児島県歴史資料センター黎明館 編『鹿児島県史料 玉里島津家史料』(鹿児島県)
安藤優一郎『島津久光の明治維新 西郷隆盛の“敵”であり続けた男の真実』(イースト・プレス)
萩原延壽『薩英戦争 遠い崖2 アーネスト・サトウ日記抄』 (朝日文庫)
家近良樹『徳川慶喜』(吉川弘文館)
家近良樹『幕末維新の個性①徳川慶喜』(吉川弘文館)
松浦玲『徳川慶喜―将軍家の明治維新増補版』(中公新書)
平尾道雄『坂本龍馬 海援隊始末記』 (中公文庫)
佐々木克『大久保利通と明治維新』(吉川弘文館)
松尾正人 『木戸孝允(幕末維新の個性 8)』(吉川弘文館)
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