コンピュータが仕事を奪う 新井紀子著 ~教育の見直し迫るコンピュータの進歩

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コンピュータが仕事を奪う 新井紀子著 ~教育の見直し迫るコンピュータの進歩

評者 江口匡太 筑波大学大学院准教授

 コンピュータが得意なのは、特定のルールや繰り返しを伴う計算や作業であり、定形化しにくい作業は苦手だ。犬の写真をみて「犬」と認識するのは人間にとっては子どもでもできるが、機械では骨が折れる。四本足で歩く多くの動物の中で、チワワとブルドッグは同じ犬であるが、猫やウサギは犬ではないことを認識させるのは難しい。なんとなくではコンピュータは動いてくれない。そこに人間のアドバンテージがあった。

しかしこの苦手な作業も、ネットを用いた大量の情報収集とデータ処理を用いてどんどん克服されている様が具体例をもとに紹介されている。演繹的に犬や猫を定義するのではなく、大量の画像データから、「犬」と区別された画像の特徴をとらえていくことによって、判別の精度を飛躍的に向上させることができるからである。こうしたことは犬や猫の区別にとどまらず、筆跡はもちろんのこと、文体のくせをとらえることによって、誰が書いたものかを特定することまでできるという。

翻訳精度の向上も本書で取り上げられており、高度な技能を持つ通訳を除けば、外国語が多少できる人の市場価値はどんどん下がっていく。私たちはネット上に無料で提供されているサービスを利用することによって、人間の仕事を奪うことに加担しているようだ。

技術革新が従来の技能を陳腐化させてきたのは新しいことではない。調整には時間がかかるが、長期的には豊かな生活が実現されるだろう。ただ、この現代の調整にさらされるのは、ごく一部の特殊な技能を持った職人ではなく、中間層の大多数であり、とりわけ、ホワイトカラーが被る影響は大きい。

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