大幸薬品「クレベリン」の広告はなぜ問題なのか? 景品表示法戦略が的外れだった点が最大の誤算

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一方、本件の攻防は以下のような前代未聞の展開となった。

1.消費者庁からの調査要求や合理的根拠の提出要求は、2021年、クレベリン6商品の広告について行われたものと思われる。
2.消費者庁は11月20日に「最後の弁明の機会」を付与。
3.普通ならこのまま措置命令に移行するが、本件では、ここで大幸薬品社側が措置命令の発令を差し止める仮処分を求めるという、今まで誰も考えたことのない奇襲作戦が取られた。「消費者庁は長期間かけて審査を行っているのに、反論の準備期間を15日しか与えないというのはあまりにも不公平ではないか」という理由。
4.翌年の1月12日、東京地裁は4商品の広告については仮処分申請を却下したが、2商品については仮処分を認容。史上初の奇襲作戦が一部成功した。
5.翌13日、大幸薬品社は仮処分を却下された4商品の決定を不服として、東京高裁に即時抗告。
6.消費者庁は20日、仮処分が却下された4商品について措置命令を下す。
7.4月13日、東京高裁は大幸薬品社の即時抗告を却下。史上初の奇襲作戦は時間を稼ぐだけにとどまった。
8.これを受けて、消費者庁は4月15日に懸案の2商品についても措置命令を下し、結果、大幸薬品社の全面敗北となった。
9.当初、争う姿勢を見せていた大幸薬品社だったが、5月3日、一転して措置命令に従う旨をホームページで発表した。

悔やまれる景表法戦略の「認識不足」

クレベリン広告について、消費者庁は一貫して「『空間に浮遊するウイルス・菌を除去』と広告しているが、その根拠がない」としている。それに対して大幸薬品社は、「うちにはエビデンスがある」と反論しているが、大幸薬品社のエビデンスは密閉空間のもの。広告で訴求する居室など日常生活のエビデンスとはいえない。

要するに、大幸薬品社の反撃は的外れといえる。この点を景表法戦略の根本に立ち返って検証してみよう。

空間除菌に関して、実験室でどんなに立派なエビデンスを作り上げたとしても、広告で居室の空間除菌を訴求しているのであれば、「居室はドアや窓の開閉で空気が入れ替わるが、密閉された実験室ではそれがないから、実験室のエビデンスはこの広告の根拠にはならない」。これが消費者庁の考え方だ。

この通常空間と密閉空間のギャップを埋めるのに重要な意味を持つのが、「打消し表示」だ。

強調表示(キャッチ)はある程度大風呂敷を広げるのが普通で、細かいことまでは書かないことが多い。そこで、「注釈」で限定したり、条件を付けたりして、エビデンスに合わせる。これが打消し表示だ。つまり、打消し表示は、強調表示とエビデンスを調和させるブリッジの役割を果たすものになる。だが、その重要性をわかっていないケースがほとんどだ。

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