「世間の常識」と「経済学の常識」が異なる根本理由 語源から違う「市場原理」主義と「市場」原理主義

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企業に勤めていると、何かと関わるのが法人税。法人税は、一見すると「法人」たる企業が負担して、消費者は一切負担しないかにみえる。しかし、よく考えれば、税は生身の人間にしか負担できないわけで、法人という「怪物」が負担してくれるわけではない。法人税は企業だけが負担するという「世間の常識」に対し、別所俊一郎(東京大学准教授)は、法人税は企業が負担しているのではないという「経済学の常識」を提示している。

近年、「健康経営」(企業が従業員の健康増進に取り組むことは、収益性を高める投資であるとの考えに基づく経営)に取り組む企業が増えている。健康経営に努めれば企業業績が上がると期待されるが、黒田祥子(早稲田大学教授)は、経済学ではまだそうした研究成果は確立していないことを紹介している。健康が蔑ろにされてよいわけはなく、健康経営を今後どう生かしてゆくかについても問うている。

医療経済学と教育経済学の「常識」はそれぞれ異なる

新型コロナの感染拡大で、わが国の医療の長短が浮き彫りになった。これまで、日本の医療は、世界に冠たる高い質の制度を有していることが「世間の常識」と思われていた。

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しかし、医療経済学からみると極めて脆弱な部分が多いことが「常識」であることを、井伊雅子(一橋大学教授)は明らかにしている。良心的な医学の知見だけが医療現場を動かしているわけではない。医師や病院など医療提供側の経済的動機も看過できない。医療従事者にも生活があり、働きに応じた所得を得たいと思うし、病院経営が金銭的に成り立たないと患者を受け入れられない。そうした経済的動機が、どのように医療を動かしているかに着目している。

経済学は、教育のあり方にも迫っている。教育とその後の稼得能力の関係において、認知能力を向上させる教育だけが生涯所得を高めるわけではなく、非認知能力の向上も極めて重要な要素であることが、教育経済学での「常識」になっていることを、中室牧子(慶應義塾大学教授)が解説している。数々の実験も含めたエビデンスに基づく教育を、わが国でも進めてゆく示唆が盛り込まれている。

「経済学の常識」は、多くの経済学者が共通認識を持つことで形成される。それは、世間でも同様だろう。それぞれの「常識」に違いがあったとき、「常識」を疑ってみるのも、知的な営みとして面白いのではないだろうか。

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