大久保利通、意外にも「明治政府で迷走していた」訳 木戸孝允と西郷隆盛が仕切る体制が機能せず

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続いて、大蔵省の井上馨も2人の意見に賛成している。大蔵省からしても、廃藩を断行することで租税徴収が可能になる。財政問題を解決するのに絶好の提案だった。井上は2人にこう話した。

「木戸さんとの交渉は引き受けよう。ただし、あと2人の意向を確認する必要がある」

2人とは大久保と西郷である。とくに西郷は中央の政治に復帰する際に、久光から「廃藩の話が出たら必ず反対するように」と釘をさされている。その西郷を説得できるかどうかが、大きな壁として立ちふさがっていた。

西郷の説得役に名乗りを上げた山縣有朋

いったい、誰が西郷の説得役を引き受けるのか。名乗りを挙げたのは、山縣有朋である。

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「わしがあたろう」

山縣は、同じ長州藩の木戸からは嫌われたが、大久保からは藩閥を超えて擁護されている。これまでは高杉晋作や大村益次郎などの補佐に徹してきた。

その山縣が今、西郷を説き伏せるという大役を引き受けて、政治の表舞台に現れようとしていた。

(第32回につづく)

【参考文献】
大久保利通著『大久保利通文書』(マツノ書店)
勝田孫彌『大久保利通伝』(マツノ書店)
松本彦三郎『郷中教育の研究』(尚古集成館)
西郷隆盛『大西郷全集』(大西郷全集刊行会)
日本史籍協会編『島津久光公実紀』(東京大学出版会)
徳川慶喜『昔夢会筆記―徳川慶喜公回想談』(東洋文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝全4巻』(東洋文庫)
勝海舟、江藤淳編、松浦玲編『氷川清話』 (講談社学術文庫)
佐々木克監修『大久保利通』(講談社学術文庫)
佐々木克『大久保利通―明治維新と志の政治家 (日本史リブレット)』(山川出版社)
毛利敏彦『大久保利通―維新前夜の群像』(中央公論新社)
河合敦『大久保利通 西郷どんを屠った男』(徳間書店)
家近良樹『西郷隆盛 人を相手にせず、天を相手にせよ』 (ミネルヴァ書房)
渋沢栄一、守屋淳『現代語訳論語と算盤』(ちくま新書)
鹿児島県歴史資料センター黎明館 編『鹿児島県史料 玉里島津家史料』(鹿児島県)
安藤優一郎『島津久光の明治維新 西郷隆盛の“敵"であり続けた男の真実』(イースト・プレス)
萩原延壽『薩英戦争 遠い崖2 アーネスト・サトウ日記抄』 (朝日文庫)
家近良樹『徳川慶喜』(吉川弘文館)
家近良樹『幕末維新の個性①徳川慶喜』(吉川弘文館)
松浦玲『徳川慶喜―将軍家の明治維新増補版』(中公新書)
平尾道雄『坂本龍馬?海援隊始末記』 (中公文庫)
佐々木克『大久保利通と明治維新』(吉川弘文館)
松尾正人 『木戸孝允(幕末維新の個性 8)』(吉川弘文館)

真山 知幸 著述家

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まやま ともゆき / Tomoyuki Mayama

1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年独立。偉人や歴史、名言などをテーマに執筆活動を行う。『ざんねんな偉人伝』シリーズ、『偉人名言迷言事典』など著作40冊以上。名古屋外国語大学現代国際学特殊講義(現・グローバルキャリア講義)、宮崎大学公開講座などでの講師活動やメディア出演も行う。最新刊は 『偉人メシ伝』 『あの偉人は、人生の壁をどう乗り越えてきたのか』 『日本史の13人の怖いお母さん』『逃げまくった文豪たち 嫌なことがあったら逃げたらいいよ』(実務教育出版)。「東洋経済オンラインアワード2021」でニューウェーブ賞を受賞。

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