広がる働く女性の格差【上】 シングルマザー
女性の社会進出にともない、多くのキャリアウーマンが高い地位・所得を実現している一方、格差の問題も深刻になっている。シングルマザーと非正社員女性という”鏡”に映し出される日本をレポートする。
(週刊東洋経済2月9日号より)
もうこれ以上働けない 「扶助より就労」の現実
月曜、午前6時半。福島市に住む塩崎千恵子さん(42、仮名)の過酷な1週間が始まる。厳寒期の凍り付くような朝空の下、中古のマイカーで近隣市の職業訓練校へ出勤する。仕事は障害者にPC操作を教える指導員。1年契約の臨時職員だ。
仕事は午後5時に終わる。だが塩崎さんの1日はまだ折り返し地点。次は自宅付近の居酒屋へ急ぎ、深夜零時までホールスタッフのアルバイトが入っている。「布団に入るのは午前2時過ぎ。毎日の睡眠時間は4時間ぐらい」。塩崎さんは疲れた表情で語る。
週末も忙しい。土曜は温泉の仲居、日曜も月に2回ほどスーパーで総菜販売のアルバイト。四つの仕事を掛け持ちしているのだ。月2日ほどの休日にやっと、たまった家事を片付けながら中学1年~高校2年の子ども3人とゆっくり話ができる。
こんな生活が始まったのは10年前、働かず子どもに暴力を振るう夫と離婚してから。今は働いている長男、二男も含めた子ども5人を連れ、約2万円を手に家を出た。これまでに工場の袋詰め作業、寮母、保険外交員などさまざまな職種を経験したが、大半が非正社員だった。
四つの仕事で得る月収は約20万円。ここに児童扶養手当4・8万円が加わる。「それでも足りない。今の貯金はゼロ」。家賃5万円、食費4万円、光熱費7万円などのほかに、消費者金融への返済約5万円がある。長男の専門学校の入学金など、子どもの進学の度にやむにやまれず借りて200万円に膨らんだ。「働くこと自体は苦にならない。頑張る姿を見せることが子どもの教育にもなります。でも、どう考えてもこれ以上働けません」。
急増する母子世帯、貧しさはトルコ並み
働いても豊かになれない、いわゆる「ワーキングプア」のシングルマザーは決して少数派ではない。2000年から母子世帯数は急増し、06年には78・8万世帯と過去最高水準に達している。このうち就業しているのは実に83%。15歳以上女性の全国平均就業率45・5%(05年)と比べると、シングルマザーの就労率の高さは歴然だ。
だが、働く母親の収入状況は極めて厳しい。母子世帯の年間所得は、国や自治体の各種手当を含めても平均233万円にすぎない。高齢者や子持ち夫婦を含めた全世帯平均の4割だ。
OECDによると、日本の働くひとり親世帯の58%は相対的貧困(可処分所得額が全国中央値の半分以下)にある。さらに、働いているひとり親の貧困率が働いていないひとり親の貧困率より高い国は、OECD加盟国でも日本とトルコ、ギリシャだけだ(出所・OECD日本経済白書)。シングルマザーの環境に関しては、日本は先進国とは言いがたい状況だ。