広がる働く女性の格差【上】 シングルマザー

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 加えて深刻なのは、働くシングルマザーが社会保障の網からこぼれ落ちているという現実だ。厚生労働省の06年の調査によると、母子世帯の17・5%が国民年金を含めた公的年金に未加入。雇用保険に至っては43・7%が加入していない。正社員に比べて社会保険の適用が十分ではないアルバイトやパートなど、非正社員で働くシングルマザーが少なくない事実を反映している。
 
 冒頭の塩崎さんも言う。「雇用保険に加入できた仕事はまれ。国民年金も余裕がなく納めていない。将来どうなるか不安だけど、今手元に残るおカネを優先してしまう」。
 
 だが、母子政策はシングルマザーがさらに働くことを要求している。「母子および寡婦福祉法」と「児童扶養手当法」を改正した02年より、母子政策は公的扶助による支援から就労を目指す自立支援に軸足を移した。「国家財政全体が厳しい一方、どう支出にメリハリをつけるかを議論した結果」(厚労省母子家庭等自立支援室)だ。
 
 この流れの中、4月から18歳以下の子どもを持つ母子世帯に所得に応じて支給している児童扶養手当が、就業意欲のない母親の世帯に対しては半減される。5年以上の全世帯の削減を目指した当初案からは対象世帯は減ったが、「扶助より就労」という基本的な流れは変わらない。
 
 その一方で、代替措置として打ち出した就労支援策の利用が一向に進まない。典型的な例が、シングルマザーを正社員で雇った企業に、地方自治体が助成金を支払う常用雇用転換奨励金制度。だが、この制度で正社員となれた母親は全国に92人しかいない。自治体の中には一度は同制度を設けたものの企業の利用が進まないために、予算を充当しなくなったケースもあるという。
 
 「助成額は母親1人につきわずか30万円。企業からは『雇用に伴う社会保険負担や、育児で残業してもらいにくいことを考えると割に合わない』という声が漏れる」。シングルマザーの就職紹介を手掛ける商業コンサルタントの吉祥眞佐緒さんは、そう指摘する。少額の助成金のような対策では、シングルマザーの就労促進、特に正社員化は進められそうにない。

”残業当然”の企業風土、日本型政策の整備が急務

 人材派遣中堅・フジスタッフの堤ゆう子執行役員は、母親層の就労促進を阻んでいるのは「長時間労働を前提とした日本の企業風土」と見ている。長時間の残業もいとわず働くことが職場への忠誠心の証しで、それと引き換えに出世が保証される暗黙の仕組みがあると分析する。
 
 山梨県に住む高木ゆりさん(35、仮名)は小学6年生の女児を抱え、食品メーカーで契約社員として働いていた。だが昨秋、それまでの企画・PR部門から、深夜11時まで残業がある販売店管理部門への異動を求められたのを機に仕事を辞めた。上司には「店舗管理を通して販売の現場を知らなければこの会社では働いていけない、正社員にもなれない」と言われた。
 
 春からは親子で東京に転居。独身時代のコピーライターの経験を生かして、子育てと両立できる職場を見つけたいと考えている。だが、子育てに専念した間に自身のキャリア的価値はゼロに戻ったのではないか--と強い不安も感じている。
 
 立教大学コミュニティ福祉学部の湯澤直美准教授は、現在の日本の母子政策を米国に倣ったワークフェア(公的扶助の見返りとして就労を要求する)型としたうえで、日本のシングルマザーの就労率は世界でも高水準。必要なのはワーキングプアの現状を解決する独自策で、住宅・教育政策、税制度など総合的なアプローチが重要と指摘している。
(週刊東洋経済編集部)

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