またマスク氏本人が「人類は1969年に月へ行き、最後の月面着陸は1972年だった。しかし半世紀たった今、月には戻れていない」と語る場面からは、技術が進化した今、なぜできない?という疑問を視聴者に生ませるのも巧みです。さらに「宇宙飛行士になるにはロシア語が必要」というNASA関係者が語る言葉を拾って、アメリカの国家事業の限界を煽っています。そして、2011年のスペースシャトル以来、アメリカの有人宇宙船の打ち上げは停滞し、NASAの計画は終了してしまうも、イーロン・マスクという救世主の登場によって官民が手を組む美談として語られています。
実際に未開拓市場と言われていた宇宙ビジネスを一気に広げ、2020年に世界初の民間宇宙飛行を成功させたことの彼の影響力は大きいのかもしれません。その後について、本作では扱われていませんが、ZOZO創業者の前澤友作氏ら次々と民間人の宇宙旅行が実現している事実からも想像しやすいものです。
「打ち上げ費用は10分の1になった」
そんななか、数字で示したNASA元副長官のローリー・ガーバー氏のコメントは理解しやすいものでした。それは、NASAが1961年に掲げた「アポロ計画」以降、有人宇宙飛行に投じた費用は約3500億ドルに対して、宇宙に送ったアメリカの飛行士は約350人であることを指摘したもの。つまり、「1人1億ドルを掛けた費用」に注目した点です。
「イーロンとスペースXは業界を一変させた。すべてが再使用可能なロケットを実現したことによって、打ち上げ費用は10分の1になった」とガーバー氏は説明したうえで、「私は宇宙商業化の新時代を受け入れる」と前向きに語った言葉は説得力を感じます。
その副産物として、火災放射器を500ドルで売るマスク氏の発想は凡人には理解しにくいものではありますが、宇宙映画のような世界を夢見る気持ちはわからなくはありません。スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』など、人それぞれが思い描く宇宙空間が現実化しつつあることを期待させてくれます。
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