日本の管理職には「ビジョンがない」残念な現実 山口周さん×中川淳さん対談(3回目)

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山口:わかりやすい例が、3.11のときの首相官邸です。官邸には原発事故の状況がわかりませんし、首相は原子力の専門家でもないので、現場の吉田昌郎所長に対しては「最終的に何を最優先にやってほしいのか」というビジョンを示すべきでした。

ところが当時の菅直人総理は、首相官邸に東大や東工大の原子力の専門家を呼び寄せて、逐一入ってくる情報に対して「こちらの言うとおりにやれ」と指示命令型リーダーを演じてしまった。あの状況では「ビジョン型」と「民主型」でやるのがいちばん良かったのですが、「率先」や「指示命令」で成果を出し続けてきたリーダーは、ああいう未曾有の状況でも自分だけを頼ろうとするんです。

ただし、こういう話をすると「ビジョン型のリーダーが理想」だと早とちりする人もいますけど、ビジョン型が有効ではないことも当然ありますよね。上司がオーソリティとして部下から信用されてない場合は、ビジョンが機能しません。

ビジョンを示すタイミングはいつでもいいわけではない

たとえば、ルイス・ガースナーが倒産の危機に瀕していたIBMを再生したときのやり方を見てみると、最初は「指示命令型」でした。自分でリストラプランをつくって、「俺の言うとおりやれ」と命じたんです。最終的には「eビジネス」というビジョンを打ち出して、それを実現できる人材を育てるようになりましたが、彼はITの専門家ではないので、最初からビジョン型でやってもうまくいかなかったでしょうね。ビジョンを示したのは、リストラで再生の目処が立ってからでした。

それと真逆のことをやったのが、ヒューレット・パッカードのCEOに就任したときのカーリー・フィオリーナです。就任した初日に再生ビジョンを打ち出したんですが、社内は「はあ?」というシラケたムードになってしまった。その後も業績を上げることができず、すぐに更迭されてしまいましたね。

そういうこともあるので、ビジョン型はそれを打ち出すタイミングも含めて、ものすごく難易度が高いやり方のように思います。だからこそ、それをうまく使えているリーダーは少ないのでしょう。

でも、それも武器のひとつとして使えたほうが有利なのは間違いありません。6つのパターンのなかで、データを見る限り業績に対してポジティブな影響がいちばん大きいのはビジョン型です。そこは議論の余地がありません。人が共感できるビジョンを示すことが企業経営の上で絶対に必要なのかどうかはわかりませんが、業績に対するインパクトはビジョン型が最大です。逆に、率先垂範型はそれひとつだけ取ってみると、マイナスのインパクトが大きいことがわかっています。

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