日本の管理職には「ビジョンがない」残念な現実 山口周さん×中川淳さん対談(3回目)

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中川:ここまでは誰も「ビジョン」を使わない。

山口:そうなんです。「ビジョン」を使うようになるのは、4つ以上の手法を使う人たちです。それだけ優先順位が低いと言えるでしょう。出現率で言うと、ビジョンを使うのは1200人ぐらいなので、およそ7分の1。15%程度ですから、日本企業のリーダーのなかで「ビジョン型」はかなりのマイノリティです。世界50カ国のなかでは、ほぼ最下位。先進国のなかでも飛び抜けて少ない。日本の管理職は、部下をビジョンで引っ張ることがものすごく苦手なんですよ。

中川:どうしてそんなに「ビジョン型」のリーダーが少ないんですかね。

山口:明治以降の近代化も、戦後の高度経済成長も、日本はずっとキャッチアップ型のスタイルでやってきました。「欧米に追いつき追い越せ」という合言葉の下、キャッチアップすべきターゲットがいつも明確だったんですね。目標が常に外から与えられる。

もっと時代を遡れば、遣隋使や遣唐使もそうです。新しいものをつくるときは、必ず国の外に答えを求めに行く。自分たちで新しい概念をつくるのではなく、具体的なモデルのなかから正解を探すというスタイルで、1300年前ぐらいからやってきたのが日本です。

そういう思考法が癖になっているんでしょう。それに、自分でゼロからビジョンをつくっても、それが社内、社外で共感されるかどうかはわかりません。だから、「ビジョン型」のリーダーとして組織を動かすには、かなりの勇気が求められます。

ビジョン型の手法は難易度が高い

中川:この6パターンは、ひとつでも多く備えていたほうがいいという理解でいいんでしょうか?

山口:統計的なデータを見ると、明らかに使っているものが多ければ多いほど業績がいいですね。それだけ多様な状況に対する適応力が上がるわけですから、当然だと思います。たとえば「率先」や「指示命令」の場合、そのリーダーが勝手知ったる領域で、かつ部下の数がそれほど多くなければ、組織は回るでしょう。

でも、リーダー自身がよく知らない領域での仕事で「率先」や「指示命令」しかできない場合、まず間違いなく大混乱します。現実には、ミドルマネージャーの多くがそのやり方で組織を動かしているので、どこかでそれ以外のやり方をしっかり教育しないと、その手法に頼ったままどんどん上の立場になっていくんですよ。

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