池上彰「報道の自由が大切な理由を知ってますか」 中国の情報統制で、世界中で多くの人が犠牲に

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中国の報道機関は、中国共産党の宣伝機関です。「報道機関」という概念がないんですね。中国のメディアのことは党の「喉と舌」という言い方をします。つまり、共産党のメッセージをそのまま伝える宣伝機関ということです。それが中国の新聞であり、テレビであり、ラジオです。だから香港で、中国の批判をする新聞の経営者は捕まるんです。

日本に言論の自由、報道の自由はあるけれど…

2019年12月、中国武漢で原因不明の肺炎が広がっていることに気づいた李文亮というお医者さんが、SNSのチャットグループで、かつて流行したSARSに似た病気が市内で広がっているということを仲間に知らせました。そうしたら直ちに警察に呼び出されて、戒告処分になりました。

デマを広げてはいけない、不正確な情報を流布するなと言って発言が封じられたんです。結果的に新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐことができませんでした。

その後、一挙に広がって行き、そしてこの李というお医者さん自身が新型コロナに感染して亡くなってしまうという悲劇になりました。

もし言論の自由、表現の自由が認められていたら、この李というお医者さんが「大変だ、どうも新しい肺炎が広がっている」という警鐘を鳴らした段階で、いち早く感染対策ができたのではないか。あるいは武漢に行かないようにという取り組みをしていれば、新型コロナウイルスが世界中に広がることはなかったのだろうと思います。

世界中で何百万人もが死ぬことにならなかったでしょう。つまり都合の悪いことを隠蔽したことで、言論の自由、表現の自由がないために、世界中で多くの人が犠牲になったということです。

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日本の場合は、中国のようなことはありません。言論の自由、報道の自由はあります。でも、これまで見てきたように、いろいろと問題点はあるわけです。これは日本が「与えられた民主主義」だからではないかと思います。大正デモクラシーで内発的な民主主義もある程度は実現できたけれど、本当の意味での民主主義って、戦後アメリカに占領されて上から降ってきた。勝ち取った民主主義ではないんですね。

新型コロナウイルスはどうして広がったか、いまだにはっきりしていません。君たちも今回は、再びリモート授業になるなど、とても不自由な思いをしたでしょう。ただ新型コロナウイルスは武漢のウイルス研究所から漏れたのではないかという疑惑がいまもささやかれています。下手に隠すと、疑惑が広がっていくということです。

言論の自由、報道の自由は、結果的に人の命も助けることができるのだということもまた、私たちに教えてくれたと思います。私の話はここまでにしておきます。

池上 彰 ジャーナリスト

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いけがみ あきら / Akira Ikegami

1950年、長野県生まれ。1973年慶應義塾大学卒業後NHK入局。ロッキード事件、日航ジャンボ機墜落事故など取材経験を重ね、後にキャスターも担当。1994~2005年「週刊こどもニュース」でお父さん役を務めた。2005年より、フリージャーナリストとして多方面で活躍中。東京工業大学リベラルアーツセンター教授を経て、現在、東京工業大学特命教授。名城大学教授。2013年、第5回伊丹十三賞受賞。2016年、第64回菊池寛賞受賞(テレビ東京選挙特番チームと共同受賞)。著書に『伝える力』 (PHPビジネス新書)、『おとなの教養』(NHK出版新書)、『そうだったのか!現代史』(集英社文庫)、『世界を動かす巨人たち〈政治家編〉』(集英社新書)など。

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