日本国債格下げへの懸念--政府が発表する予定の計画と実行可能性について注視/ムーディーズの日本国債格付け責任者に聞く
経常収支が赤字になるという予測は数年前から出てきたが、予想される時期はどんどん先延ばしになってきているのが実情だ。状況によっても変わる。大幅な円高になり、企業の競争力にはマイナスの影響が出ているが、一方、アジアの活況の恩恵に浴することもできている。
日本は対外純債権国として多額の資産を海外に持っているので、利子所得は増えている。貿易収支が赤字になっても、資本収支の黒字によって大幅な経常収支の黒字が維持される可能性がある。したがって、経常収支の赤字転落は長期的にはリスクであるが、短期的・中期的にはシナリオとして起こる可能性が高いとは見ていない。
--経常収支の赤字化が見えてくるということの前に、市場参加者のマインドが悪化するようなきっかけはありうるか。
家計貯蓄は少子高齢化を考えるとおそらく下がっていくものと考えている。その点にも注目している。
--日本銀行がマネタイゼーションに進む可能性についてはどう見ているか。
それは極端で、可能性の低いシナリオだと考えている。98年以降、日本銀行はかなり大幅に長期国債の買い入れ額を増やしている。対GDP比で見てFRBが保有する米国債の比率よりも大きいが、ただその比率は05年ごろから下がってきている。
さまざまなプレッシャー要因はあるが、米国のQE2のように、量的緩和へ国債をさらに買い増すという動きは見られない。危機的な状況でも起きないかぎり、日本銀行がマネタイズを行うとは考えていない。
--少子高齢化や企業の競争力の低下などを含め、日本の国力が低下しているとは感じられないか。
他の国との比較で言えば、11年の見通しで、日本のGDPはまだ1ドル=80円換算で5兆ドルある。中国のGDPは6兆ドルで経済成長率が非常に高く、米国のGDPは14兆~15兆ドルある。しかし、その他の国を見れば、はるかに小さい規模だ。日本は依然として、経済大国であるので、ショックを吸収できる力がある。