JR西「人型ロボ」実用化に挑む3人の社長が描く夢 量産化や他業界への展開、「下半身」も開発中

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さらに塚本社長は「フェイルセーフ性能」も付け加えた。高所作業中にロボットが故障して重さが20〜30kgもある部品を地上に落としたら大事故になりかねない。故障しても落とさない、周囲に人がいないかどうかセンサーで安全確認するといった事故防止策も織り込む必要がある。「たとえば当社のロープ式ホームドアには人が挟まれないように検知するセンサーが付いている。これまで蓄積してきたフェイルセーフ技術をきちんと盛り込んでいく」。

そして、さらなる小型化にも挑戦する。「電気自動車向けに開発されているような小型でパワーがあるモーターをカット&トライ(試行錯誤)で採用していきたい」。

人手不足の時代において、このロボットが人の代わりに使えるとなれば、JR西日本以外にも買い手はいそうだ。では、製品化が実現したら、何台くらい造るのだろうか。塚本社長は「まだ想定していない」とするが、鉄道会社1社につき複数台は売れそうだ。

また、多少の仕様変更を行うことで高所作業以外にも使える可能性がありそうだし、もっと言えば、鉄道以外のユーザーにも展開できそうだ。そもそも重さ100kgのものを持ち上げることができるのはver.1.1で実証済みだし、逆に、人手では難しい原発施設のデブリのような小型の物質の処理などにも活躍の場が広がる。その潜在力を考えれば、日本信号の新たな事業の柱になる可能性もある。

最終的には「完全な人型」に

人機一体にも今後の構想がある。零式人機は頭と両腕の上半身のみだが、同社は二足歩行ロボットも開発中。二足歩行ロボットは他社も開発しているが、「人間がロボットの脚の感覚を感じながら、脚の動きを直接操作するというシステムはあまりないのではないか」という。さらに上半身と下半身をセットにして最終的には完全な人型にしたいという構想もある。

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人型ロボットではない事業展開にも力を入れている。最近では新明工業、椿本チエイン、タダノと共同で油圧駆動を持たず完全電動化されたショベルを開発し、2022年の国際ロボット展で公開した。排ガスが出ず、低騒音、油圧配管メンテナンスが不要といったメリットがあるという。

金岡氏の密かな目標は2026年の株式上場だ。「今はあんまり言いたくない」と謙遜するが、2024年春から人型ロボットを搭載した多機能鉄道重機がJR西日本の沿線各地で活躍するようになれば、その夢は現実に近づくはずだ。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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