JR西「人型ロボ」実用化に挑む3人の社長が描く夢 量産化や他業界への展開、「下半身」も開発中

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それを具現化したのが、2014年に開発されたMMSEBattroid(MMSEバトロイド)や零式人機ver.1.0、ver.1.1、ver.1.2といった人型ロボットだ。ver.1.1は昨年11月24〜26日に開催された「鉄道技術展」にも出展され、作業の実演が来場者の喝采を浴びた。(2021年11月29日付記事「SFの世界が現実に、JR西『人型ロボット』のド迫力」)

ver.1.0〜ver.1,2は特定の作業を目的とせず汎用性を重視して開発された。そこで高所作業を行いたいというJR西日本の要求に応えるため、ver.2.0が開発された。ver.1.1と比べて腕の長さは同じだが、クレーンに載せられるように胴体は一回り小さくした。また、ver.1.1は片腕で50kg、両腕で100kgの重量を持ち上げることができたが、両手で器用に仕事をしてほしいというニーズを踏まえて片腕20kg、両腕40kgに変更された。

屋外での実証実験を経て、金岡氏は「性能的に問題ないことが確認できた」と自信を深める。しかし、ver.2.0が2024年春に実際の営業線に投入されるわけではない。金岡氏が開発しているのは1台だけのプロトタイプ。手作りのため制作費用も莫大だ。製品化そして量産化するのであれば、コストを踏まえた開発が必要だ。ロボットアニメでいえば、試作機のガンダムをベースにGM(ジム)を造るようなものだ。

なぜ日本信号がロボット?

量産化、製品化を託されたのは鉄道信号大手の日本信号である。同社とJR西日本は業務資本提携を結んでおり、その関係からJR西日本が日本信号に声を掛けた。社名に「信号」を冠しているが、その事業領域は鉄道信号や道路信号にとどまらず、自動改札機、ホームドア、駐車場のバーロックシステムなど幅広い。

日本信号の塚本英彦社長(記者撮影)

とはいえ、日本信号と人型重機ロボットでは親和性が低いようにも思える。事業の関連性はあるのか。こんな疑問を日本信号の塚本英彦社長が即座に打ち消した。「ロボットにはサーボ制御が使われており、当社が製造する自動改札機や駐車場の精算機などにもサーボ制御の技術が使われている。当社がこれまで蓄積してきた技術を今後何に使うべきかを考えると、こうしたロボットが一番近いんじゃないかな」。人の作業を代行するという意味では改札機もロボットである。そう考えれば、日本信号が人型ロボットの製品化に乗り出すことに違和感はない。

日本信号は零式人機ver.2.0を単に量産化仕様にするというわけではない。同社ならではのミッションもある。まず、屋外での作業を考慮した防塵耐候性能の強化だ。雨、雪だけではない。炎天下ではロボットの表面温度が60〜70度まで上がることもある。塚本社長は「当社の信号機器はそういう過酷な環境で動いているのでロバスト(頑健)性は確保できる」と自信を見せる。

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