フィリピン大統領選で独裁者の息子が有力なワケ 巧みなSNS戦略、母の執念、エリート層への不満
筆者が抱いた当時の印象は、今回の大統領選を観察する中でも大きくは変わらない。大統領になって何をするのか、どんなフィリピンをめざすのか、ビジョンが伝わってこない。
候補者討論会はすべて欠席、厳しい質問をしそうなメディアとの会見は拒否していることもあって、自身の政策も曖昧模糊としている。例えば日本政府も強い関心を持つ南シナ海問題にどう対応するのか、はっきりしない。選挙演説などでも「ドゥテルテ政権の継承」「UNITY(団結)」と言っていることぐらいしか記憶に残らない。
討論会や記者会見、インタビューなどに出ないのは聞かれたくないことや説明できないことがたくさんあるからだろう。父親の時代の人権弾圧や汚職、自身の学歴詐称に加え、リベラル系メディアや対抗陣営は、最高裁で確定した相続税2030億ペソ(約5000億円)の支払いを拒んでいる点を追及している。これほどの巨額の税金を滞納している候補者が選挙活動で多額の金を使っている事態は、外国人である私の理解を超えるが、多くのフィリピン人は気にする様子もない。
絶大な現職大統領の娘「サラ効果」
それではなぜ、そんなボンボン氏が選挙戦で先頭を走り、当選確実となっているのか。
いくつかの理由が考えられるが、間違いないのは「サラ効果」である。副大統領選に立候補し、ボンボン氏とタッグを組むドゥテルテ大統領の長女だ。サラ氏は長らく大統領選出馬が噂され、情勢調査で首位に立っていた。にもかかわらず副大統領選に回り、ボンボン氏と組むことになったため、サラ氏の支持層は大統領選ではほとんどがボンボン氏に流れたとみてよい。南部ミンダナオ島を地盤とするドゥテルテ家と、ルソン島北部のイロコス地方やイメルダ夫人の出身地・中部レイテ島などを支持基盤とするマルコス家の合体で全国ネットワークが完成した形でもある。
ボンボン氏は前回2016年には副大統領選に出馬したが、この時は今回対抗馬となっているロブレド氏に競り負けている。6年間「無職」だったボンボン氏に対して、ロブレド氏はドゥテルテ大統領と反目し、干されながらも災害被災地支援などで実績を重ねてきた。にもかかわらず、ボンボン氏が圧倒的優位に立っている状況は「サラ効果」抜きでは説明がつかない。フィリピンでは勝ち馬に乗る「バンドワゴン効果」が強く出る傾向があり、これもボンボン・サラ陣営を後押ししている。
マルコス家は家長のイメルダ夫人を中心に、復権の階段を一歩一歩上ってきた。ゴールはマラカニアン宮殿への「凱旋」である。それが夢だとイメルダ夫人はかつて筆者に語っていた。
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